第三章 波音は心音に似ている

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 椿生のバイクが走り出すと、今度は追跡してくるバイクがあった。椿生は、後ろを確認すると舌打ちし、加速すると路地に入り込んだ。だが、時間が無かったので、止まる事はせずに、ビルの中を走ると別の道に出た。  嘉藤の孫、良哉を殺してしまったというのは、鈴宮にとっても想定外だったのかもしれない。嘉藤は、不正もしているが、裏社会にも顔が利く。 「……全く、面倒臭え」  しかも死んだ良哉を、十津川の死の偽装に使ったので、更にややこしくなった。椿生の呟きに、俺も頷いてしまう。  裏社会にある吉原は、地下社会との境界線にあり、街中からはやや外れていた。だが、ネオンや提灯が並び、夕方にさしかかると周囲全体が明るく浮かび上がる。  吉原の表通りは、乗り物での進入が禁止されていて、送迎は裏の通りのみになっていた。表通りは、相手を物色している男が大勢いて、店のショーウィンドウには、着飾った女性や男性が並んでいた。  でも、一階にいるのは、庶民向けの相手で、高級娼婦の類になると二階以上にいる。滅多に顔や姿を見せないので、憧れの存在になっていた。だから、時折、窓が開くと、皆が見上げて仰いでしまうのだろう。
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