第三章 波音は心音に似ている

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 十津川の事は、あまり調べていなかった。だが、内臓の壊死を思い出すと、他の事も思い出してきた。  潜入捜査官は、どんな拷問を受けても、口を割ってはいけないと教えられている。だが、与えられた偽りの人生と役目でも、共感して分かり合ってしまう人が出来る。敵であっても仲間となってしまうと、裏切る事が辛くなる場合もある。 「十津川は、嘉藤を憎んでいて、絶対に不正を暴くと言っていた」  だが、現実では、どんなに証拠を集めても、圧力で消されてしまう場合が多数ある。 「証拠を集めても動けない公安ならば、必要ないと十津川は言っていた」  十津川の結婚指輪は本物で、可愛い妻と二人の子供がいた。何故、過去形なのかといえば、ある日突然、十津川の前から家族は消えたのだ。  十津川は、幼馴染と結婚したと周囲に言っていたが、誰もその彼女の事を知らなかった。更に、彼女の素性や出身地、親兄弟に至るまで、全て嘘であった。  十津川は洗脳されて、嘘の記憶を与えられていた。十津川には、警察の内部情報を流出させた疑いがかけられていた。それが何故、公安にいるのかといえば、監視を付けて保護していたのだ。 「……誰が、十津川に潜入捜査を許したのだ?」  どう考えても、十津川に潜入捜査は無理だろう。
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