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陽子の弁護士が、手元の紙をちらちら見ながら言った。
「あなたは、陽子さんに淋病をうつしたというのは本当ですか?」
少しの間隔をあけて、うつむき加減に夫が答えた。
「…はい、本当です。」
「その原因は、なんだか明確になっているのですか?」
鋭い目つきで弁護士が夫を見ていた。
「…妻以外の女性と…」
ため息をつきながら、夫はそこで話すのをやめた。
「妻以外の女性と、なんですか?」
弁護士の声が大きく聞こえた。
夫は黙ったままだった。
「はっきり答えて下さい。妻以外の女性と、なんですか?」
「…妻以外の女性と…体の関係を持ったからです。」
ずっと夫が認めなかった浮気は、夫の携帯電話に残されたメールによって、証明された。
夫は、陽子に淋病をうつした。
陽子は浮気をしていないと完全に言いきれたので、陽子が夫を問い詰めた。
それで発覚した浮気。
淋病にかかった男性は、性器の先から膿が出るが、痛くはないようだ。
それに比べて女性は、もう最悪な状態になる。
陽子は39℃の熱が出て、子宮がつかまれたように痛くて、病院へ行った。
病院でもらった薬は、医者の説明通り、副作用があった。動機が激しくなり、息苦しくなる。
当時、1歳と5歳の子供を持つ身としては、あまりにもつらかった。
子供達の面倒を見ながら、薬の副作用と戦う。
動機が激しく立っていられなくなり、しゃがみこむと、5歳の長女が陽子の頭をなでてた。
「お母さん、大丈夫?」
長女の言葉に、陽子は涙が止まらなかった。
仕事から家に帰ってきた夫は、淋病の症状と薬の副作用で寝込む陽子に、「よく寝るな~。俺なんか、38度の熱があっても働いたぞ。」と、半笑いで言った。
夫の父親は、「まぁ、梅毒じゃなくてよかったんだよ。」と、笑いながら言った。
許せなかった。
本人尋問の最中に、そんなことがフラッシュバックされた。思い出したくないのに、陽子の頭に焼きついてしまった出来事。
今度は、夫の弁護士が陽子に聞いた。
「あなたは、子供達を父親のいない子にしてしまっていいのですか?」
陽子は、夫の弁護士の目をまっすぐ見て言った。
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