不幸中の幸い

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「将来、年をとって、私の具合が悪くなった時に、面倒を見てくれるとは思えません。ケンカばかりで、思いやりのない言動が多く、それを目の当たりに育つことを考えたら、子供達と私と3人で生きていく方が、幸せだと思います。」 「そうですか。以上で本人尋問を終わります。」 夫の弁護士は言った。 その時だった。 大きな地鳴りが聞こえたかと思うと、床が円を描くように強く揺れた。 一番高い場所に座っていた裁判官が、「みなさん、机の下に入って下さい!」と叫んだ。 机の脚を持って机を支えているのに、机が動いてしまうくらいの激しい揺れが続いた。 夫が陽子に駆け寄ってきた。 「陽子ちゃん、大丈夫だから。」 夫が言い終わらないうちに、裁判官が叫んだ。 「今は動かないで下さい!!」 久しぶりに夫が私の半径1m以内にいた。 夫の近さと、建物の揺れに、陽子は震えが止まらなかった。 「真夏・・・美波・・・」 小学生の娘・真夏は、ちょうど学校からの下校時間に当たっていた。 (倒れた塀の下敷きにならないでよ。) 涙が止まらなかった。 祈るような気持ちだった。 保育園に行っている美波は、先生と一緒だから大丈夫だろうと思えた。 どのくらい続いたかわからない激しい揺れが静かになった時、陽子の弁護士が携帯電話のニュースを見た。 「岩手と宮城で震度7だそうです。」 「え~!!」 その場にいた全員が驚いていた。 その激しい揺れは、2011年3月11日に起こった、東日本大震災だった。
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