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保育園に行っている次女の美波は、陽子のお迎えがないと帰宅できないから、保育園が絶対に面倒を見てくれているはず。
でも、いくら家のカギを持っているからと言っても、長女の真夏を1人で家にいさせるのは、怖い気がした。
家では家具が倒れているかもしれないし、床になにかが散らばっているかもしれないし。
また大きな揺れが起こったら、きっと1人でパニックになるだろう。
真夏の通っている学校へ、携帯電話から電話をしてみた。
『通話できません』の文字が表示されるだけで、なんにも音がしなかった。
もう1度、試してみた。
結果はわかっていたが、やはり『通話できません』の文字が表示されるのみだった。
隣の家のママ友達に電話をかけてみたが、やはり同じことだった。
なんで、こんな日に限って・・・
悔んでいてもしかたないとすぐに思い直して、陽子は弁護士に頼みごとをした。
「事務所に地図ってありますか?」
「ありますよ。」
「見せて下さい。帰る道を調べたいんです。」
「歩くんですか?」
「はい。」
陽子は躊躇なく答えた。
弁護士の事務所は、その駅から歩いて5分くらいの場所にあった。
「コンビニに寄ったら、すぐに行きます。」
コンビニに入り、ペットボトルの水とお茶、おにぎり、チョコレートを買って、弁護士事務所に向かった。
陽子は意外と冷静だった。
電車が動かないということは、歩く人はかなり多いはず。
ということは、コンビニの食べ物が売り切れてしまう可能性が高いと思った。
チョコレートを選んだのは、山での遭難事故の時、チョコレートを食べて生き延びた人がいると聞いたことが何回もあったからだ。
別に山登りをするわけではないけれど、家まで電車で1時間の距離を歩こうとしているので、きっと相当きついに違いないと思ったからだった。
弁護士事務所で、分厚い道路地図を借りて、持っていたノートに道順を書きこんだ。
コンビニがある交差点を右折、
200m先のガソリンスタンドを左折、
1500m先のスポーツクラブを右折すると、
国道に出るから、そこからは線路沿い。
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