不幸中の幸い

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万が一、電車が動いた時に乗れるように、線路沿いの道を歩くルートに決めた。 11駅過ぎて、牛丼屋がある信号を左折すると県道。 そこまで行けば、あとはいつも車で通る道だから、調べなくても帰宅方法は分かった。 ただ、この弁護士事務所から、その11駅目までは、19kmもあった。 そして、その場所から家までは、直線で14km。 33kmも歩くなんて、考えられない・・・ でも帰る方法は、歩くしかなかった。 陽子は、夕方4時ちょうど、地図を見せてもらったお礼を言って、弁護士事務所を後にした。 歩道の幅は広い場所なのに、たくさんの人で歩道は埋まっていて、まるで、バーゲンセールの開店前の列に並んでいるかのようだった。 流れてはいたが、人が多すぎて歩きづらかった。 ところどころにあるコンビニのレジとトイレには、長蛇の列ができていた。 そんな時、携帯電話のメール着信音が鳴った。 (えっ? メールはできるの?) すぐに見た携帯電話には、1か月前に仕事で知り合った佐田からのメールが入っていた。 『地震、大丈夫でしたか?』 そのメールの発信時間は、15:27だった。 腕時計を見ると、時刻は16:10。 メールは約40分遅れで着いたことになる。 『今日、家庭裁判所に行っていたので・・・電車止まっちゃったから、歩いて帰っています。』 陽子が送ったメールも、おそらく40分遅れくらいで届くのだろう。 陽子はすぐに、隣の市に住む母親にメールを送った。 『家庭裁判所から歩いて帰っているから、何時に家に着けるかわからないの。悪いけど、子供達を頼んでいいかな?』 隣の市といっても、4kmくらいしか離れていない場所で、車で移動できるから、特に心配はないとみていた。 陽子は、ひたすら歩いていた。 いつもは電車で来ている家庭裁判所。 でも道路を歩くことになるなんて。 繁華街はあっと言う間に過ぎて、辺りはだんだん薄暗くなってきていた。 陽が沈みかけ、外灯と店が少なくなったからだ。 みんな同じ方向に歩いていく。 道路は大渋滞で、タクシーも全く進めない。 バス停には長蛇の列ができているが、バスも全く進めない。 その上、バスは通勤ラッシュ以上のぎゅうぎゅう詰めだった。 歩いた方が明らかに速く進めた。
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