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ファミリーレストランには誰も客がいなかった。
不思議に思い、近づくと、『ガスが止まっているため、臨時休業します』という貼り紙があった。
携帯電話のメール着信音が鳴った。『歩いて帰るの? 大変だから、迎えに行くよ。』
佐田からのメールだった。
さっきメールを返信してから、25分が経っていた。
少しはマシになってきているのかな?と思いながら、返信をした。
『悪いですよ、遠いから。それに大渋滞でしょ。』
迎えに行くよ、なんて驚きすぎてしまった。
25分くらい経ってから、メールが来た。
『もう向かっているから。どこ歩いているか教えて。』
「えっ?」
思わず声が出た。迎えに来てくれるなんて。
『すみません。どうもありがとうございます。線路沿いの道を歩いています。途中で県道に入る予定です。』
『わかりました。こっちはすごい渋滞だから、何時に着けるかわかんないけど、近づけたらメールします。』
『ありがとう。どんどん進みますから。』
25分おきくらいのメールのやりとりをしながら、陽子はひたすらに歩いていた。
途中、自転車販売店の前を通った。
自転車を買っている男性が2人見えた。
佐田が迎えに来ると言わなければ、きっと自転車を買って、家までこいで帰ったに違いない。
ずっと歩いているのに、陽子の体は温まることはなかった。
歩く距離が長くなるほど、歩いている人の数が減っていった。
外灯は、まばらになり、コンビニもなかなか姿を現さない。
車を運転していると、いろんなところでコンビニを見つけられるのに、歩くと、こんなにも間隔があることを知った。
『真夏と美波と家にいるからね。みんな無事だから、こっちは心配しないで。歩くのは大変だから、どこかビジネスホテルにでも泊まったら? ムリすると、体を悪くするよ。』
陽子の母親からメールが届いた。
これで、子供たちのことは、もう大丈夫。
なんだか少し気が抜けて、やっと見つけたコンビニの駐車場の輪留めにを下ろした。
長い距離を歩き続けて、いきなり止まったせいか、足の感覚が、少しおかしかった。
ガムを買うためにコンビニに入ると、残っている食べ物は袋菓子くらいだった。
おにぎり、サンドイッチ、パン、惣菜、お茶、水、スポーツドリンクのペットボトルは、なにひとつなかった。
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