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「野良ちゃんだから、どこかに流れていっちゃったのかしら……?」
彩白も家で猫を飼っているため、猫が好きだ。なので、結斗の話を聞いていて余計に心配になる。
「うーん。まあ、餌場を放浪するのって、野良だとよくあるみたいだしねえ」
オヒョウさんは見た目からして生粋の野良猫である。
餌場からより良い餌場へ流れて行ってしまうこともあるだろう。
近所には地域猫も多いため、縄張りを避けて出て行ってしまったのかも知れない。
「もっと慣れてきたら、家の中に入れてあげようと思っていたんだ。残念……」
家猫として飼うつもりでいたのかと彩白に思わせながら、しょぼくれた様子で結斗は言う。
「ねえ、先輩。探すの、私も手伝うわ」
家族の一員に加えようと可愛がっていた猫がいなくなってしまったのだ。心配をする気持ちは、彩白にも分かる。
今日は一緒に出掛ける約束をしていたが、そんな約束はいつだってできる。
あまりにも結斗が落ち込んでいるために提案したが、結斗は首を左右に振った。
「ううん、大丈夫。“来るもの拒まず、去るもの追わず”って言うじゃん。僕ん家より居心地の良い場所を見つけたんだろうなって、前向きに考えて諦めるよ」
気を改めたように、結斗は彩白が見慣れたへらりとした笑顔を作る。
「話を聞いてくれて、ありがとうね。遅くなっちゃったけど、デートしよ?」
無念さを振り払った、いつもと変わらない朗らかで明るい結斗の態度。
男の人は話を聞いてほしいだけだと言うけれど、と。知ってはいるが――、聞かせられた彩白の方が、オヒョウさんの行方に気を揉んでしまうのだった。
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