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〝らくらく安全システム〟の導入は順調にすすんだが、美智の仕事は楽にはならなかった。4月の経理課は決算を〆るために3月以上に忙しい。他の部署のように花見を楽しむ余裕などなかった。まして美智は、経理課から転出したとはいえ、初瀬に仕事を教えながら決算作業を行わなければならないのだ。
経理課では、深夜残業が続いた。小さな子供のいる希美も、夫とその両親に子供を託して残業をしていた。ある夜のこと、給湯室でインスタントコーヒーを淹れて戻った美智は、自分の机の上に違和感を覚えた。
何かが変だ。……マグカップを両手で挟んだまま考え込んだ。
「みっちゃん、どうしたんだ?」
二宮はこれといった仕事もないのに、三井や土橋が帰らないので残っていた。もしかしたら彼が何かに触れたのかもしれないと考えたが、すぐにそれを打ち消した。彼には美智の持ち物に触れる理由がない。
「ちょっと疲れて……」マグカップを置いて目頭を押さえる。机の上の違和感も、疲れから来るものかもしれないと思った。
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