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「今年は二度、年が変わる。この正月に西暦が2018年から2019年に変わり、5月には平成が終わって新しい元号になる。二つの年号を使うことに、子供の頃の私は疑問を覚えていた。不合理だと。
……しかし、今は違う。西暦は明治維新に始まった日本のグローバル化……。つまり世界への適応であり、元号は、世界に交わりながらも己を見失うまいというアイデンティティー維持の象徴なのだと考えるようになった。維新後、この二つの暦の間で日本人は揺れてきた。それは不安や恐れのような揺れではなく、前進するための原動力だったのだろう。
……さて、我が社は昨年、20億もの投資をして高齢者向けシェアハウスを買い取った。それは世間が言うようにモチズリ建築を救済するためだけではない。土木建設業というアイデンティティーを維持しながら、新規事業によって成長するためだ。我々自身が変わるためだ。……変わるということは不安が伴う。社内外に新たな問題も生じるだろう。しかし、それを恐れてはいけない。それが経営ということであり、生きるということだ……」
NOMURA建設社屋の正面玄関前。気温三度の寒風の中で、150名の社員を集めて新年恒例の社長挨拶が行われていた。一段高い玄関ピロティーに立った野村勇作社長は、水墨画にある達磨のような顔を赤くし、拡声器を両手で握って選挙演説さながらに自分の思いを社員にぶつけている。
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