136人が本棚に入れています
本棚に追加
2月20日、総務課にシェアハウスなどの保有不動産を管理し、収益につなげる資産管理係を新設すると発表された。3月には人を集め、立ち上げの準備に入るという。3月といえば決算月なのだ。そんな時期に人手を取られては困ると多くの部課長たちは難色を示し、社員は自分が異動になるのではないかとざわついた。
「私、異動ですか?」
経理課でも皐月が動揺していた。人事異動は発表前には口外できないことだ。容子が沈黙を守るほど、何も知らない皐月の不安は大きくなって仕事が遅れる。見かねて美智が教えた。
「さっちゃんは入社1年目だもの、異動はないわよ」
「本当ですか? 私、仕事が遅いから心配だわ。……先輩はいいですね。絶対、経理課を出ることがないもの」
「あら、どうして?」
「先輩がいなくなったら、決算が出来ないじゃないですか?」
美智が応えるより早く、別の声がする。
「そんなことはないわ。希美さんがいるから……」
声の方向に思いつめた容子の顔がある。美智が初めて見る表情だった。
「みっちゃん、会議室に来てくれる」
容子が感情のない声を残して席を立つ。美智も立った。
最初のコメントを投稿しよう!