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翌早朝、出社した美智は経理課の席に向かい、積み上げられた初瀬の荷物に気づいて異動したことを思い出した。総務課の端に座った時、少しだけ寂しい思いを味わったが、気を取り直してクラウドにある音声ファイルの確認を行った。そうして一時間ほど過ぎると、パラパラと同室の社員が集まり始めた。
「おはようございます。これから、お世話になります」
二宮の第一声は爽やかで、みんなが振り向いた。彼が直属の上司になることに、美智はホッとするものを感じた。ところが、ろくな挨拶を返す間もなかった。「ここは後でいいから」と、待ち構えていた容子が二宮を連れ出したからだ。その傍若無人ぶりには総務課長の三井もポカンと口をあけていた。
二宮が総務課の席に戻ったのは昼休みが終わってからだった。
「……すみません。彼を役員たちに紹介してきたものですから……。これから二宮さんをよろしくお願いしますね」
容子は野村家の威厳を盾にして告げると、恐縮する二宮を残して自分の席に向かった。その背中は、息子を保育所に置いて行くモンスターマザーのようだ。
「野村課長は、意外に子煩悩かもしれないな」
三井が皮肉を言った。
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