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客用のスリッパに履き替えてリビングに入る。そこには6人掛けのテーブルが3台並んでいて、テレビを見ている老人が10人ほどいた。DVDなのだろう。画面では数年前に亡くなった落語家が落語をやっていた。
笑い声をあげていた老人たちの視線が2人に向く。歓迎する視線は僅かで、多くは異物を見るようなものだ。
「こんにちは。私は……」二宮がハル子のことで訪問したと話した。
「あぁ、ハル子さんなら私が見つけたんですよ。こっちにおいで」
伊藤絹子という老女がテレビから遠いテーブルを指定する。二人がその席に座ると、「お茶を淹れようかね」と、絹子は茶碗を取りにいった。
「小野塚さんがどうかしたのか?」
小太りの山田富雄がやって来て美智の隣に掛けた。
戻ってきた絹子が茶を注ぎ、「どうぞ」と大福餅を勧める。
「ワシの好物の大福だ。食えよ」
山田が美智の手を取り、大福餅を半ば強引に載せた。
「なんだい、山田さん。若い女が来たと思ったら、鼻の下を伸ばして」
「たまには若い女の匂いもかがないとなぁ」
美智に向いた山田の目尻は落ちそうなほど下がっている。
「私、若くはないですよ」
「ワシから見たら、孫……、いや、子供みたいなものだ」
山田は言い直して笑った。相変わらず美智の手を握ったままだ。二人の手の中で大福餅が温まっていく。枯れたように見える老人でもセクハラをするのだと美智は実感した。
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