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二宮は山田の手にちらりと視線を走らせたが、注意することはなかった。
「小野塚さんは、退院されたのでしょうか?」
「なんだ。大家なのに知らないのか?」
山田が美智の前に乗り出すようにして二宮の顔に眼をやった。その視線が時折、美智の胸元に注がれる。
「ハァ……。私どもは所有しているというだけで、管理はモチズリ不動産がやっているものですから」
「なんだい、そんなものか。大家は親も同然。店子は子も同然というのになぁ」
「山田さんは落語の見すぎだよ。そんな風に言ったら可哀そうじゃないか。実の子供だって、親のことをほっぽらかしにする時代だよ」
絹子が注意をしても山田は平気な顔をしている。
「だからこそだ。遠くの親戚より近くの他人というだろう。ましてワシらは金を払っているんだ。少しぐらい面倒見てもらっても罰は当たらんだろう」
「山田さんは、そんなだから若い人たちに嫌われるんですよ。……小野塚さんは、まだ退院してないですよ。この前も民生委員の五頭さんが来て、着替えを持って行ったから……」
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