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「フランスでは、繫がらない権利というのがあるそうだよ。勤務時間外は業務上の電話やメールを拒絶できるらしい」
二宮が言った。
「私は……」美智は少し考えて話す。
「……仕事と私生活の区切りは曖昧なものだと思います。通勤は仕事なのか私生活なのか? 居酒屋で仕事のことを話するのは、勤務なのか私生活なのか? 勤務時間中の喫煙は? 風呂に入りながら仕事のアイディアを考えたら勤務なのか?
……私生活が人生の一部であるように、仕事も人生の一部ですから。それで、人生では仕事が一番大切だと思っている上司のメールが自宅に届いてしまう。仕事と私生活の区切りをつけるのは時間や場所じゃなく、生活とはどういうものかと捉える世の中の良識なのだと思います。
……フランスの繫がらない権利というのは、私もテレビで見たことがあります。実態は、うまくいっていないという報道でした。どこの国でもサラリーマンは会社の都合の良いように動かなければなりません。異動でも査定でも権限を持っているのは上司ですから……。
アメリカでは、上司に逆らったら首にされかねないそうです。労働者が権利を主張するのと同じくらいに上司も権利を行使する。終身雇用の発想がないから、雇用契約も打ち切りやすいそうです」
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