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程なく二宮から連絡があった。
「山田さんなら心配はいらないよ。好きな大福餅を喉に詰まらせて転んだようだ。その時にテーブルの角に頭を打ち付けて大福は吐きだしたが、脳震とうを起こして動けなかったらしい。救急隊は、念のために病院に運ぶそうだよ」
「そうですか……。でも、よかったぁ」声がこぼれ出た。
「当社の〝らくらく安全システム〟の有効性が証明されたね。みっちゃん、おめでとう」
三井が祝福すると、京子や桃香、皐月たちがパチパチと手を打った。
「当社の……、ではないですけどね」
美智は小さな声で応えた。「大家は親も同然。店子は子も同然というのになぁ」と言った山田の顔を思い出し、「親の責任は果たしましたよ」と、心の内で応えた。彼が部屋の鍵を掛けたのは、寂しかったからに違いない。誰も部屋に来ないから、自ら鍵を閉めて人が来ない理由にしていたのだろう。そう思うと、山田の無事を素直には喜べなかった。
「安心したら、集中力が切れました。今日は帰ります」
一度ざわついた気持ちを鎮めることができず、美智は席を立った。他の社員も似たようなもので、作業を終える者が多かった。
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