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「──小夜莉、あんたも来なよ」
黒ずくめの少女は久しぶりに自分の名前を耳にして、ビクッとした。小夜莉がクラスメートと話すのはじつに二年ぶりになる。
そして、小夜莉の名前を呼んだ彼女こそが、小夜莉が不登校になるキッカケを作った張本人でもあった。
霧園有華──それが彼女の名。
茶色に染めた長い髪に美しく整った顔と、抜群のスタイルを備えた有華は男子生徒からは高嶺の花のような存在──
そして、有華のお尻にコバンザメのように並んで歩く香奈と瑠美含めた三人をワンセットで、『三大悪魔』と心の中で小夜莉は呼んでいる。
「いや。私は行きたくない……」
「あんたより幼い子どもが森の中を彷徨ってるのよ? お父さんがかわいそうでしょう?」
有華がいう『幼い子ども』とはバスが事故を起こした後に忽然と姿を消した女の子のことだ。
『ここがどこなのかわからない場所で人探しするのは危険だ』と運転手は反対した。
──だが、業者無しでパンクしたタイヤを交換するのには時間がかかる事も踏まえて、タイヤを交換するまでの間に消えた子どもを探すことで、大人たちの意見は一致したのだ。
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