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「──それは大変な一日でしたね。だからこのぬいぐるみを見てたのか」
月麦は女性と目が合うと、友彰の背中に隠れて顔半分だけをそっと覗かせて女性のほうをじっと見つめた。
女性はその様子を見てクスッと微笑むと、ぬいぐるみをぽんっと掴んで手に取った。
「これ、月麦ちゃんにあげる」
「え、いいですよ。そんな気を使わなくても」
「いいんです」と言って女性はぬいぐるみを月麦に渡した。月麦は目を輝かせて両手を広げてぬいぐるみを受け取ると、誰にも渡すまいとガッチリ両手で強く抱きしめて離さない。
「誕生日は誰にでも幸せになる権利がある日だから。私なんかが持ってるよりずっといいです」
「ほんとすみません。何とお礼をしたらいいのやら……」
「いいえいいえ。私こそぼっちで遊びに行くのつまんないな〜と思ってたので、こうやって誰かとお喋りしたり、喜ばせる機会を与えてくださってこちらこそありがとうございます!」
二人は堅苦しさを残したお礼の挨拶を交わし合うと、妙なやり取りに思わず女性はふふっと笑う。
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