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たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
リューは走った。
台風に倒された電柱や樹木をかき分け、
無惨に崩れた塀をくぐり、
愛する飼い主の危機を救うために。
リューは走った。
リューは走った。
たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!
「どうしよう・・・誰にこの手紙を渡せばいいのかな?」
一心不乱に走った為に、リューは困ってしまった。
「でも、ここで止まってはいけない!!何とか開人と美憂をパパとママを助けたきゃ!!」
やがてリューは、街を抜けて山に入っていった。
「やばいな・・・ここに僕の飼い主を助けてくる奴居るかなあ?」
リューの登っている崖の麓には、無惨な姿でくたんとへし折れて倒れている巨大な鉄塔が見えていた。
「これも台風のせいかな?」
ざざっ!!ざざっ!!
「ぷぎーーーーー!!」
「げっ!!イノシシ!!」
森の中から、一匹の丸々太ったイノシシがリューの側を突きっていった。
「う~~~~~~!!」
リューは、イノシシに向かって牙を剥いて身構えた。
「ぷぎーーーーー!!」
・・・やばっ・・・!!
どんなに威嚇しても、無視して猛スピードでこっちに突っ込んでいくイノシシに仰天したリューは、一目散に山道を駆けて逃げた。
「うわっ!!うわっ!!うわっ・・・!!」
山道には、台風に煽られ折れ崩れた木々や枝や散乱した葉で殆んど覆われ、何度も何度も躓いては立ち上がり、後ろから猪突猛進してくるイノシシを交わすように必死に逃げた。
ドドドドドドドドドドドドドド!!
たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!
「うわっ!!」ドスン!
リューは、木の枝に躓いて転倒した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「ぷぎーーーーー!!」
「イノシシが・・・もう駄目だ・・・!!
開人、美憂、ごめん!!助けられなくて・・・!!」
その時だった。
キキキキキキ・・・ずざーー!!
厳ついイノシシは、リューとぶつかる寸前に急ブレーキをかけた。
「えっ?」
イノシシは、腰を抜かしたリューを牙でで起こすと、鼻を鳴らし野太い声でこう告げた。
「君、台風で壊れた人間の家の飼い犬か?」
「え・・・ええまあ。」
「俺は仲間あの人里に降りて、幾度も人間に撃たれるんだけどな・・・
それでも、あの人里が酷い目になって、心を痛めてンだ。
せいぜい、頑張れや。そして人間の元に無事に帰れ。」
その言って去っていったイノシシの悲しげな目は、リューの心に更なる力を与えた。
・・・きっとあのイノシシも、あの台風の『被災者』なんだ・・・
・・・その為に・・・
・・・開人と美憂の為に・・・!!
たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
リューは再び駆けた。
野を越え、
山を越え、
車道を突きって、
裏道を走り、
やがて、台風に被災した場所を離れ、
遠くへ・・・
遠くへ・・・
「あれ?見知らぬ犬が彷徨いてるぞ?」
とある街にやって来たリューを、そこの住民が見付けた。
「ちょっと!あんた!」
「なんだい?!今、テレビ観てたんだよ。丁度、ワイドショーで煽り運転の手口とかやってて・・・」
「だから、首輪の付いた迷い犬が・・・」
「解ったよ!!今行く。」
この家の男性と女性は、道でウロウロしているリューを見詰めた。
「大丈夫かしら?」
「狂犬病にはなってないから・・・大丈夫かと。」
「保健所に連絡する?」
「可哀想だよ。首輪付いてるからきっと飼い犬よ。」
その時、二人はリューの首輪に何かメモが付いている事に気づいた。
「ねぇ、ワンちゃん。こっちきて。」
女性は、家の奥からドッグフードを持ってくるとリューの側に置いた。
「うち、丁度チワワ飼っててね。これで大丈夫かしら?」
女性は、ガツガツとドッグフードを頬張るリューの頭を撫でながらその首輪に付けられたメモを取り出した。
「あんた!大変よ!!この犬!!」
「えっ!?そうなの?!テレビでそんな事全くやってなかったから・・・向こうでこんなことになってたなんて!!」
「確か、知り合いに土木業者が居たよね!!」
「今、連絡するよ!!」
男性は、徐にスマホを取り出した。
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