night kiss

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「どうもー、熊さんは?」   ピッチャーがこっちに向かって差し出される。冷酒を頼んでいたので断ると、矛先が天羽に向いた。戸惑いながらも持ち上げたジョッキに、なみなみとビールが注がれる。   「あ、もうそのくらいで……ありがとうございます」 「はーい、乾杯!」   分厚いガラス同士がカチンとあたり、二人がビールを流し込んだ。   「天羽さんもくる? 合コン来ちゃう?」 「山下さん、天羽さんは持ち帰らないでよ。社内でくっついた後に痴話喧嘩されたら営業フォロー大変だから」 「熊フォローなんかされたら余計こじれるわ! じゃあ社外の子もくるなら合コンする?」   酔っぱらった勢いでガンガン来る山下に、天羽は曖昧に微笑みながら目を泳がせた。いや、目が泳いでいるのは酔っているせいか?   「僕、山下さんよりかなり年上なので、熊谷さんのお友達の方がいいですよ」 「あーあ、体良く断られた。つかほとんど年変わんないよね? もしかして年下はいや? 天羽さんの歴代彼女っていくつ?」 「んー、えーと、年齢はバラバラだったかな......」   瞬きをして言い淀んでいる様子に熊谷は助け舟を出した。   「天羽さん結構酔ってない? ソフトドリンクもありますから注文してくださいね」   年上の社会人相手に言う必要もないことだったけれど、熊谷の言葉に天羽はふっと表情を緩めた。   店員が持ってきた冷酒を受け取りながら、ドリンクを選んでいる天羽を見ると、俯いているせいで目元が前髪で隠れ、紅潮した頬しか見えない。外回りのせいで健康的に日焼けしている熊谷と違い、天羽の肌は無機質に整っている。その分、顔のパーツが際立って見える。   穏やかそうな唇、熊谷の手なら簡単に包んでしまうことができそうなするりとした顎。なんだか繊細な機能がありそうな耳。 注文を決めたのか、天羽が顔を上げた。横顔に緩やかな曲線を描く黒目がちな瞳。その斜め下に小さな:黒子(ほくろ)がある。泣きぼくろだ。上唇の近くにも。何か名前があったっけ? 美人黒子?  色が白い分、その小さな点によって顔のパーツが印象に残る。なるほどなぁ、そういう効果があるのか。そう一人で納得しながら見とれていると、正面から冷酒の徳利を突き出された。   「おっ、ありがと。山下さんはずっとビール?」 「うん、天羽さんピッチャーも一緒にお願いできますか?」 「はーい、後はいいですか? ちょっと頼んできます」   立ち上がり、どうやら店員に直接注文に行く様だ。座敷から降りるところでもたついているから結構回っているのだろう。飲み会が始まってかなり時間がたっているのに、細い腰にたくし込まれているシャツが無駄なく整っているのが不思議だ。そんな背中を見ていたら、山下が何か言いたげな目でこっちを見ている。   「えっろい目してぇ、天羽さんの腰見てんの? ね、天羽さんって顔よし、スタイルよし、頭もよさそうなのに、女慣れしてなさそうじゃない?」   いなくなった途端に噂話が始まるのは世の常だ。   「なに、山下さんは天羽さんが童貞だとでも言いたいの?」 「そこまで言ってない! むしろ熊さんが言ってんじゃん」 「まじで、ほんとに狙ってる?」 「うーん、興味はあるし仲良くなりたいけど、付き合いたいとか、そういうのはないかもなぁ。って微妙に失礼か、本人には絶対言わないでね!」   ふうん、と適当に相槌を打ちながら冷酒を舐めた。興味があって仲良くなりたいのに付き合いたくないって何なんだ? 恋愛じゃなかったら何をしたいんだろう。 男の目から見ても、天羽は優良物件だ。見た目はいいし、意外と面白そうな人だとは思う。付き合ったらギャップがありそう。 例えば……実はすごいセックスがうまいとか。
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