between the sheets

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「おお、でかい。クイーンサイズ? 人んちで見るの初めてだ」 「んー、キング」 「あー、はいはい、失礼しました」   真面目に答えてくるあたりがおかしくってくすくす笑うと、危なっかしい足取りでベッドに近づき、すとんと端に腰かけた。 ベッドが大きい分やけに華奢に見える。 玄関にも、寝室にも女性が住んでいる雰囲気はなかった。寝相がめちゃくちゃ悪いのか、過去に同棲相手がいたのか。 天羽はさっさと整えられたシーツの上に自分で横たわり、何がおかしいのか熊谷を見上げながらくすくす笑っている。子供かよ。   無駄な肉も付いておらず、いつも細身のスーツをきれいに着こなしている。歳も変わらないように見えるけれど、天羽は熊谷より五つ年上だから、今年で三十歳のはずだ。 モテるんだろうな、でも女を抱いている姿は全く想像できなかった。 普段の、あまりにもきちんとした外見のせいなのかもしれない。季節で言えば冬のような凛としたたたずまいがよく似合っている。   ベッドを見下ろすと、今の天羽は動物のように身体をもぞもぞさせておさまりのいい体勢になろうとしていた。 ああ、これはかわいい。雪の中で動き回る生き物のようだ。色白で、すらりとした手脚を丸めている様子は、子供の頃に本で見たオコジョを思い出させた。 落ち着いたポジションが見つかったのか、天羽は本格的に寝る気配を見せていた。   「ネクタイつけたまま寝るんですか? シワになるから外しますよ」というと、目を閉じたまま顎を突き出した。襟元を晒しているから、外していい、ということなのだろう。   首元からシュッと音を立ててネクタイを引き抜くと、後ろめたいことをしているような気分になってきた。 整ったものを乱す。折り目正しいもの、きれいであろうとしているものを、荒らす。理性を本能で凌駕するような、倒錯的な興奮の欠片を感じて、体温がふっと上がった。   気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸した。横顔にかかった髪を、起こさないように静かに避けると、口元が緩み幸せそうに微笑んだ。   シンプルで無駄なものがない寝室だった。ヘッドボードにはスマホスタンドと香水以外何も置いてない。 清潔な香りの残るシーツに居酒屋の匂いは似合わない。熊谷は少し逡巡したのち、シャツを脱がすことにした。細身の身体に合わせたシャツは、着たまま寝るにはいささか窮屈そうだった。 ボタンを外すごとに、紅色に染まった肌がダウンライトにさらされる。されるがままになっているその身体は、壮絶に艶めかしく見えた。 スラックスはどうする? 気心の知れた友達なら遠慮なく脱がせるけれど、天羽は嫌がるかもしれない。でも皺になるし、ベルトをしていると身体に痕が残りそうだ。迷いつつも、ベルトを抜き、ボタンを外してファスナーを下ろす。足元に畳んで置いてあった上掛けで腰回りを覆い、スラックスを脚から抜いた。
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