stigma

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そんな天羽の我慢が臨界点を越えたのは、慶太の浮気だった。自分と同じ部署の女性と浮気されていた。もう全てが受け入れられなくなった。バイだと分かっていても、女との浮気は吐き気を催すほど気分が悪かったし、そんな自分にも嫌気がさした。  この部屋は天羽のものだった。喧嘩の後二週間の猶予をもって慶太は出てゆくことになっていた。その二週間、彼がこの部屋で見ることはなかった。日中に少しずつ荷物が減っていった。会社も有休をとっていたのでどこにいるのか分からない。 慶太の相手の女性にも自分の存在を知られた。噂はすぐに広まって当然のように好奇の的にさらされた。会社での生活は針のむしろだった。知らない社員にじろじろ見られたり、つまらない嫌がらせもされて、もう限界だった。 猶予期間の最後日、一緒に外で晩御飯を食べようと慶太から連絡があった。会社を辞めて、しばらく旅行に行くという。珍しく穏やかに話をして、これでいよいよ別れるのかと思っていたら、部屋に帰ってくるなり玄関で押し倒された。シャワーを浴びることもなく、最後の最後まで一方的に抱かれた。ただ性欲をぶつけられるだけのセックスは、今までで一番不愉快であったのに記憶が飛ぶほどの快楽を残していった。 「比呂、お前、俺を追い出したことを後悔するなよ!」 身体中を噛まれていたことは、翌朝一人で目覚めた後に気が付いた。脱衣場には使った後のタオルが投げ捨てられていた。手紙も何もない。テーブルの上にあったのは鍵だけ。 「最悪......死ねよ。ばか......」 文句を言う相手はもうどこにいるかすら分からない。 翌朝、靴箱を開けて自分の靴しかないのを見た途端、ようやくいなくなったんだと実感した。 混乱する気持ちに蓋をして転職し、ようやく生活も落ち着いた。もう前を向いてゆこうと思って参加した飲み会だったのに。 思い出しちゃだめだ、早く忘れよう。気持ちを沈ませる重しのような記憶に蓋をした。遠く曖昧になった慶太の顔だけが心の中に漂っている。 ぼんやりとしたイメージは昨晩の熊谷と重なってくる。 似ているなぁ。もしかしたらあの顔が鬼門なのかもしれない。
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