good omen

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性能(スペック)こそ要件に最適と言われたが、カスタマイズを含めると競合他社より価格が高くなってしまうため、決定を渋られていたのだ。客先要求とこちらの落としどころを見極め、練りに練ったプレゼンで説得した案件が通ったのだ。   アドレナリンが身体じゅうを一気に駆け巡る。   パソコンの電源ケーブルを抜き、小走りで社長席に行った。一瞬フロアが静かになり、何事かと注目が集まった。 遠目にも興奮隠しきれないまま報告する声は、管理部門にも切れ切れに届いていた。   「はい、朝イチでメールを貰って......納期が少し......ですが......ずは向こうが契約書のドラフトを......」 「納期は何とか調整しよう! よくやったな!」   社内の空気がふわっと変わった。社長が立ち上がり、フロア全体を見渡した。すでに全員がよいニュースを期待して待っていた。   「おーい、みんな聞いてくれ! 熊谷君がまさかの輸出案件を取った。知ってる人もいると思うが、客先でビジターカードを置いたままトイレに行って、向こうの社長にエスコートしてもらった案件だ」 ネタとして広まっていただけに、あちこちから笑いが起こる。   「そのお陰で打ち解けてプレゼンもうまくいったのだろうと思う。転んでもただでは起きないのは結構なことだ! 今回はテスト用の出荷だけれど、うまくいけば全製品に使ってくれる。大口につなげてゆきたい案件だ。ポテンシャルは十分ある! 拍手!」   おめでとう、という声と共にオフィスのあちこちから拍手が鳴り響く。営業チーム、ロジスティック担当、管理部門......順番に会釈をして、一番端にいた天羽と目が合った。まっすぐにこちらを見ている。   あ、と思った瞬間心臓が跳ねた。ヤバイ、なんだこれ。じわ、と汗が噴き出るような熱感がして体温が上がる。 気持ちのやわらかい部分を素手で鷲掴みされた気分だった。   そんな熊谷の心の内は当然天羽には伝わっていない。ひとしきり祝福した後、静かに座り、その顔は机の前の資料の陰に隠れてしまった。   さっきまでそこにあった天羽の顔の残像から視線を剥がせないまま、熊谷は突っ立っていた。   「熊谷君、どうした?」   不審に思った社長に声を掛けられて、天羽の席をずっと見ていたことに気が付いた。   「あ、何でもありません。契約関係は法務と連携して進めます。さっきのメールを回すので確認をお願いします」 「うん、あと何かあればすぐに私に上げてくれ」   熊谷は浮足立つ気持ちを押えて仕事モードに戻り、社長に向き直った。
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