手紙で交わす、幼なじみへの思い

1/4
前へ
/4ページ
次へ

手紙で交わす、幼なじみへの思い

 第一章 「秋二への思い」  二〇二三年五月、朝10時。荒川(あらかわ)ルカは横浜駅の北改札にいた。今日はここで幼なじみの秋二(しゅうじ)と待ち合わせている。時間をつぶすために肩にかけている紺色のバッグから本を取り出し、読み始める。  十五分が()ったころ、水色のシャツに白いズボン姿の若い男性が改札口を抜けて彼女のほうへとやってきた。いたずらっぽい笑みを浮かべながら 後ろから彼女の肩を軽くたたいて「ルカ!」と声をかける。  振り向いた彼女の顔は驚きのあまり赤くなっていた。「秋二。今日はよろしくね」「こちらこそ。横浜って、いつもすごい人が出てるよな」「通勤する 人が多いからね。ゆっくり座っていこう」  二人は階段で東急東横線のホームに降りて、時刻表を見ながら電車が来るのを待った。まもなくやってきた各駅停車和光市行きの電車に乗り、空いている前の席に座る。日曜日ということもあり、車内はそれほど混んでいない。  「最近、どんな風に過ごしてるんだ?」と秋二に聞かれ、「家の近くの本屋で立ち読みしたり、六月にある漢検5級の試験に向けて過去問を解いたりしてる」と答えると、「合格できるといいな。お守り一つ持ってるから、後でお前のかばんにつけてやるよ」と返された。「ありがとう」と彼の方に顔を向けてお礼を言ってから、駅のホームに設置されているコンビニで買ったチョコレートを一粒口へ放り込んだ。  一時間後、電車は今日の目的地、西早稲田駅に到着した。秋二はルカの肩を 軽くたたいて起こすと、一緒にホームに向かって歩き始めた。改札口を抜けると、安いラーメン屋や本屋などが立ち並ぶ通りに出た。  「ここの大学の隣に今日の目的地、わかば図書館があるんだ。今日はここで、『感謝の手紙を書く』っていうイベントがある。きれいな便箋や蛍光ペンも用意されるらしい」彼の言葉にドキドキしながら館内に入ると、木でできた長机に色とりどりの蛍光ペンとシャープペン、便箋が置かれていた。席に座ると、スタッフの女性が「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。今日は自分のそばにいる人に、感謝の手紙を書いてください。手書きのものは今少なくなっていますが、もらうと嬉しいですよね」女性の言葉に、ルカたちの近くに座っていた70代ぐらいの老夫婦がうなずいている。ルカは小声で秋二に「手紙に何書くの?」と聞いた。「届いてから見てくれ」と返され、期待が高まる。女性が「では、始めてください」と言って机の周りを歩き回り始めた。  ルカはクローバーが書かれた便箋と黒いシャープペンを手に取り、秋二と この図書館で初めて出会った時のことや、彼と一緒に東京に行ったときのこと などを書き始めた。女性が「時間です」と言って再び彼らの机の近くにやってきた時、彼女の書き上げた便箋は六枚になっていた。隣の秋二を見ると、彼も ルカと同じ枚数の便箋を書き終えていた。      
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加