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暴かれた過去
ダッシュで家に帰り、パソコンの近くの引き出しをひっくり返して、マイクロSDカードのアダプターを探した。
滅多に使わないものだから、普段手に取れるようなところにはないが、確かあったはずだ。
引き出しの奥底からやっと見つけ、マイクロSDカードをセットし、パソコンに差し込んだ。
そこには────…
『純ちゃん!!今から家行って良い!?』
『…おう』
車だったらすぐに行けるのに。
歯痒かったが、どうすることもできない。
急いで最寄駅へ向かうバスに乗り込んだ。
家で待っていた純ちゃんは、僕がインターホンを鳴らすと、待っていましたとばかりに勢いよくドアを開けた。
「何か…分かったのか?」
「…とんでもなく近いところに、彼女は答えを残してくれてたんだ。それに気付くまで、時間がかかっちゃった」
そう言って徹は、マイクロSDカードを見せ、パソコンに入れた。
音声データとビデオデータが入っている。
「僕のネックレスの奥に仕込まれてたんだ。で、開いてみたら、これだよ」
────荒げられた恨めしい声。
懐かしい声…。
『はい、見ての通り、抑えたよ、浮気の現場〜』
『…っ!!あんな風に言われて、はい嫉妬させるためのヤラセですごめんなさいとか言えないじゃん!』
『意志が弱いんじゃない?結局、嫉妬させるはずが徹に隠しちゃったんでしょ?』
『私はマネさんが全部話した上で大谷君を紹介してくれるものだと思ったのに!!ただ紹介したいって言ったんでしょ!?大谷君はすっかり私が本気で彼氏を探してるみたいに思い込んでしまってる。なのにいきなり嘘ですごめんなさいって、そんな失礼で申し訳ないこと出来なかったの!!』
『自分で聞いてきたんだから、自分で全部説明すりゃ良かったじゃん』
『彼をそういう風に使うので紹介するって提案したのはマネさんでしょ!?…そりゃあ…徹君には本当に申し訳無く思ってるよ…自分で言えなかったのも私の弱さ…でもそれを逆手に自分キッカケでやったこと、動画撮るってどういうこと!?』
『自分でやったことだもん。まさか本気で付き合ってるなんて思わないし。私はよく思わないよそりゃ』
『自分から…全部言って謝るの。県総体終わったら』
『それって、私が唆したってことも言うわけでしょ?』
『そりゃあ、もちろん。全て偽りなく言うよ』
『ふざけないでよ。どうして私まで徹に嫌われなきゃいけないわけ。自分で言うなら殺すからね』
『じゃあビデオ見せるの!?』
『当たり前でしょ。もし嫌なら、自殺しな。それするならビデオは持ってっていいよ。データ捨てて死なないなら殺すまで』
徹君に私の弱い姿を映像として見られたくなかった私は…度重なるイジメ、大会前の怪我も重なり、生きていることが辛くなってしまった。
その私に、この条件は、願っても無いものだった────
「…恨んでたからな…浦田…彼女のこと」
「彼女の行動は、純ちゃんに本当のことを言えなかったことは、許せないけど…それよりも反省して自分で言うって言ってるのを遮って、彼女が弱ってるのに漬け込んで死を促した浦田が許せねぇ。そもそも殺すとか言ってる時点で十分犯罪だ」
「…もう一つ、ビデオがある…」
画面に彼女が映った。
『…はい、ええっと、今は、2015年5月2日。夜…7時半。明日は県総体です。このビデオが、いつ見つかるか、分からないけれど…。見つかった時は、私はいません。今日…こ…これか…ら…私は………自殺、します』
────もう一つの音声データを見てくれたら分かると思うけど、私は大谷 純君と、浮気をしてしまいました。
初めは徹君を嫉妬させるために、と、マネさんが唆したことでした。
マネさんは大谷君に、私を彼氏を探している、と紹介しました。
本当に申し訳なかったけど、そんなつもりはなかったです。
でも、それでいきなり、そう言うことだからごめんさよなら、とは、私の良心が許さなかった。大谷君に申し訳ないと思ったんです…。
いつまでも切り出せず、ダラダラと交際することになってしまいました。
徹君への罪悪感で押しつぶされそうになりました。
言わなきゃいけない、そう本気で思ったから、部活の邪魔にならないように、県総体が終わったら、全て話して、謝ろうと思いました。
それをマネさんが邪魔をした…。
どうしても撮られたビデオを見られたくなかった。
きっとこのビデオは複製され、私が死んでも彼女はバラすと思う。
私が死ぬのは…それを見て、悲しみ、恨む徹君を見ることが出来ない…から…。
でもそれだけじゃない。
このタイミングで怪我をしたこと。
何より…毎日のイジメ…もう耐えられない。
きっと、いつか本当のことに徹君が気付いてくれると信じて…このデータは隠します。
表目は…恨むなと言うよ。
でも…これを見つけたなら…分かるよね、徹君。
これが全ての…私の自殺の、真意でした。
『────いつか、見つかったらいいな…。今後の活躍は…あっちで見守ってます。いつまでも大好きだよ、徹君。それじゃあ、お先に』
ビデオが終わり、泣いているだろうな、と横の徹を見ると、意外にもさっぱりとした顔をしていた。
「…意外と、さっぱりした顔してんのな」
「…彼女が…自分の意思で浮気を選んだんじゃなくて良かったよ…。それだけでもう十分なんだ」
「結局…俺と形上付き合っていたのも、彼女が俺に申し訳なく思ってのことだったからね」
「全ては、彼女の優しさ、だった。あの時…たしかに、冷たくしてたのは事実だ。それがきっかけだったから…原因は僕の方にもある」
彼女は、ビデオを晒されることを拒んだ。
結局そのデータは、複製され、手元に残っていた。
ヤツは約束も守らなかった。
「恨むべきは…」
「結局、浦田だったってこと」
2人は目を合わせ、少し落ち着いた様子で笑った。
「浦田を呼び出そう」
僕は浦田を、思い出のあの場所、保土ヶ谷公園へ呼び出した。
「今日は公園デート?…えっ、大谷君…も?」
「…黙ろうか。犯罪者が」
徹は、音声データを再生した。
「…彼女は…全てを教えてくれようとしていた。でもお前がそれを妨げた」
「…なんで…撮られてたの…これ…」
「徹のネックレスに、マイクロSDが入っててね」
「…あの女っ!!」
「…さぁてと、いつでも警察に突き出すことが出来る。立派な自殺教唆だ」
「……ごめんなさいっ」
「安心しろよ。今は出さねぇ。好きなように生きればいいさ。でも忘れんな?僕らはいつでもこの証拠を持ち続けている。今後僕らに、何か調子に乗ったことをしたら、全て曝け出してやるからよ」
「…徹の…徹のことが好きだったから…」
────徹のことが好きだったから、初めからチラついてた彼女のことは好きではなかった。
とうとう彼女は徹と交際して、私は引き剥がそうと必死だった。
だから、丸め込んで大谷君に近付けさせ、彼女の性格を利用して断りにくい環境を作り、それを晒し、別れさせたかった。
でも本当に死ぬなんて思ってなかったよ…。
「…本当に、ごめんなさい…」
「浦田、謝ったって彼女は…」
声を荒げようとする大谷に、徹が肩を叩いた。
「もういいよ。帰ろう」
「…いいのか?」
「…あぁ。飯でも食おう。奢るよ」
真実は全て、曝け出された。
寒さが厳しい、12月。
間も無く大晦日で、皆田舎へ帰っているのか、それともこの寒さのせいか、人は疎らだ。
終わり良ければすべて良し。
一年の終わりに、僕はゆみと彼女にどん底まで落とされ、結局彼女に支えられていた。
「あとは…ゆみとのことでしょ」
純ちゃんはラーメンをうまそうに食べながら言った。
「それもうまくいくといい。彼女は忘れずに、きっと心からゆみを愛せる」
「ゆみは何を失って気付くかな…」
「命だけでも失わないでいてくれるなら…僕はなんだって助けるよ。そういや、上手くいくように動くって言ってたのは?」
「…そういえば、言ってなかったね」
純ちゃんは「ここからは俺が奢ろう」と、ビールを追加で二本頼んだ。
これから話すことに、余計にアルコールが必要なのかと、少し胸がざわついた。
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