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僕たちを残して
あの子がいなくなった。
大きな懐中時計を持った白うさぎが言う。
「うさぎよ、どうしたんだい?」
帽子を被った男の子、帽子屋がそう尋ねると、うさぎは首を左右に振って「あの子がいないんだ」と再度呟いた。
「ぼくがあの子を女王様のもとにお連れしようと思ったのにいなくなったんだ。女王様のところに行けば、あの子は沢山の物を食べられたはずなのに。大きなケーキにチキン、甘いプティングに、まるまるとしたカエルだって食べられる」
いったいどこに行ったんだ?
今朝まではいたはずなのに。
うさぎは困ったように首を捻らす。
「それは困ったね」
帽子を被った男の子も首を捻った。
「あの子がいなくなった」
うさぎと男の子がう~んと唸っていると、どこからか声が聞こえて、空中ににんまりとした口が浮かび上がる。
続けて、鼻、目、 耳、しましまのピンク色の体が浮かび上がり、最後に尻尾が出てくる。
「チェシャ猫」
うさぎが驚いて声を上げると、チェシャ猫はくすくすと笑う。帽子を被った男の子は、慣れているのか呆れた表情をしていた。
「あの子を知らないかい? 道に迷うゲームをしようと思ったら、いなくなっていたんだ。せっかく、一緒に遊ぼうと思っていたのにさ」
チェシャ猫は首を一回転させて、いつものにんまりとした笑みを浮かべる。
「チェシャ猫もあの子の居場所を知らないのか」
帽子を被った男の子は小さくため息を吐く。
このままじゃ、誰も居場所なんて知らないんじゃないか。
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