僕たちを残して

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「そういえば」 白うさぎは思い出したように跳び跳ねる。 「どうしたんだい?」 帽子屋が尋ねる。 「あの子は何かに怯えているみたいだった。ぼくが女王様のところに連れていこうとしたら、泣いて嫌がったんだ」 白うさぎはしょんぼりと肩を落とす。 すると、「そうだ! そういえば」と空中からも声がする。 白うさぎと帽子屋が振り向くと、チェシャ猫も何かを思い出したように、頭を体から離して、手でお手玉をしていた。 「あの子は、道に迷うゲームをしたら頻りに嫌がっていた。僕から走って逃げたんだ」 「チェシャ猫からもかい?」 帽子屋は「あの子はどうしてしまったんだ」と首を更に傾げる。 「実を言うと、僕からもあの子は逃げてしまったんだ。帽子を作る練習をしたくて、頭を貸してと言っただけなのに」 帽子屋の言葉にうさぎもチェシャ猫も「なぜだろうなぜだろう」と呟いている。 「ぼくも女王様と遊ぶために、体を貸してと言っただけ」と白うさぎ。 「ぼくは、道迷いゲームをするために手足を貸してと言っただけさ」と笑うチェシャ猫。 みんながみんな、あの子がいなくなった理由が分からず困り果てていた。 「あの子は消えたよ」 どこからか小さな声が聞こえる。 みんながその声の主を探し回っていると、葉っぱの上でキセルをふかしている芋虫がいた。 「どうしてだい?」 「どうして?」 「なぜだい?」 白うさぎ、帽子屋、チェシャ猫が芋虫に慌てて尋ねると、芋虫は煙を思いっきり吸い込み、口からドーナツのような輪の煙を吐き出す。 「私が、小さくなるキノコを食べるように勧めたのさ。相当怯えきっていて、ここから居なくなりたいと言っていたからね」 芋虫は小さくなるキノコが生えている場所に視線を向けた。 「そうしたら、彼女はばくばく食べはじめて、みるみる体が小さくなった。挙げ句の果てに私より小さくなり、もうすがたかたちも見えなくなった」 それを聞いた三名は顔を歪ました。
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