誕生日イブは眠れない

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 間の悪い事に急にトイレに行きたくなってきた。おしっこをガマンしながら誕生日を迎えるのは、どう考えてももったいない。どうしようかと悩んでいるうちに十二時まであと十分になった。  いよいよ限界が近づいてきた。ギリギリまでガマンして、結局トイレの中で十二時を迎える羽目になったら、これまでの努力がだいなしだ。  蒼世は仕方なしにトイレに行くことにした。トイレはリビングを出て、L字型の廊下のちょうど角のところにある。角を曲がると玄関だ。  家の中があまりに静かなので、「ぬきあしさしあししのびあし」と心の中で唱えながら歩く。  本当は、一階に寝ているおじいちゃんとおばあちゃんは少し耳が遠いし、他の家族は二階が寝室なのだから、足音くらいたてたってかまわないのだが、腰がひけてついへっぴり腰になってしまう。へっぴり腰よりは泥棒歩きの方が、カッコ悪くないだろう、と蒼世は一人なのにカッコつけているのだ。  トイレに入る。普通だ。いつもと変わらない。それなのに背中がぞわぞわする。何かが出て来そうな気がして、すばやく用を済ませトイレから飛び出した。  「あれ……?」
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