読まずに食べて

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八木くんは、手紙を読む私なんか目もくれず、アップルデニッシュに千切った新聞紙を振りかけている。あれは昨日の朝刊だ。どこかの大学が入試結果に細工して、合格条件に満たなかった学生を不正入学させた事件。昨日の朝刊は、その事件が一面に載っていた。マスコミに囲まれて、頭を下げるスーツのおじさんたちの写真が、妙に印象に残っていたから、多分間違いない。 八木くんは新聞紙を綺麗に切り裂いていく。頭を垂れたスーツのおじさんたちは、みるみるうちに細切れになった。アップルデニッシュに盛られたおじさんの残骸を見て、何とも言えない気持ちになった私は、気分を紛らわすため、お友達レターを元あった淡青色の封筒に戻した。 「読んだ?」 八木くんに聞かれ、私は素直に頷いた。もしかして、感想でも聞かれるのだろうか。 いや、それはないな、八木くんだし。 予想通り、八木くんは感想など一ミリも聞いてこなかった。 しかし、「じゃあ、これあげる」と言われて差し出されたのは、少々予想外のものだった。 「これって……」 私は、新聞紙が盛られたアップルデニッシュと、差し出されたアップルデニッシュを見比べた。どう見ても同じものだ。 「わざわざ買ってきてくれたの?」 おずおずと手を差し伸べる私に、八木くんは頷いた。 「菊池さん」 アップルデニッシュを受け取った私が顔を上げると、八木くんは微笑を浮かべて、 「不合格おめでとう」 と言った。 「八木くんって……意外と性格悪い?」 紙だけを一途に愛す、他者無関心人間だと思っていたが、意外とお茶目なところもあるらしい。 「菊池さんほどじゃないよ」 それだけ言うと、八木くんは、新聞まみれのアップルデニッシュに噛り付いた。 私も負けじとアップルデニッシュにかぶりつく。砂糖で煮られたりんごは、甘酸っぱくて、青春の味がした。
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