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こんなことは勘弁してください。
「くるみさ~ん。
今日は、いつものカリカリと違う、やわらかいのあげるよ~。
おいで~」
と、響留が少しトーンの高い声で、こんな猫なで声を出すときは注意が必要だ。
響留がカンヅメを開ける音がする。
パカッ
だめだ。この香りは抗いがたい。
強烈に脳内麻薬が弾けるこの香り。
それはカツオの香り。
響留がご馳走の時に使う、私専用の高底になっている白い小ぶりのお皿にそれを盛る。
カツオの身が、琥珀色のスープにコーティングされている。
しかも、おじゃこのせ。
こんなにビジュアル的に美しい物は他にはない。
私の頭の中は、カツオとおじゃこのコラボレーションで見事なデュオを奏でていた。
が、しかし・・
「は~い。くるみさん。まずは爪を切るよ~」
やっぱりか!
またしても引っ掛かってしまった!
響留は私の右前足を持って、肉球を押して、ニュッと飛び出た私の爪をあっという間に切った。
それから左前足、両方の後ろ足の爪を切った。
私は、肉球を触られるのが嫌いだ。爪を切られるのはもっと嫌いだ。
しかし、この先にもっと嫌なことが待っている。
「くるみさ~ん。かしこいね~。じゃ、シャワーするよ~」
と言って、私をだっこして浴室へとつれていく。
私は嫌だ嫌だと叫んでみたが、
「すぐ終わるからね~」
と響留は言うだけだ。
どれだけ抗おうとしても、自慢の爪を切られたところだから、なされるがままだ。
浴室で逃げた場所に、シャワーをあててくる。
私は不満を訴えるが、
「くるみさん、もう少しだから、頑張ろうね~」
と、全く通じない。
そして、いつものように2度シャンプーされてしまうのだ。
さらに、このあと、シャンプーが終わってからも嫌なことがある。
ドライヤーだ。
あの熱風をかけられる感じ。
何よりも、あの音!
あのブーンて言う音!
たまらなく苦手だ。
私は盛大に訴えるが、
「くるみさん、かわいい声だね~」
と、私が嫌がっているのがわかっているくせに、斜め方向のご機嫌とりをする。
この一連のことが終わってから、ようやくご馳走だ。
うん。
確かにこれは美味だ。
最高に美味だ。
これがあるから、爪切りもシャワーもドライヤーも、物凄くイヤだけど、ゆるしてあげる。
それに、毛が乾いてからは、身体全体がふわふわしていて気持ちが良いしね。
ちなみに、私は響留にはフーッと言って怒ったことはない。
私がフーッという相手は、動物病院のあいつらにだけだ。
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