フルートと響留

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フルートと響留

響留が小学四年生のその時、学校の音楽のイベントで、木管アンサンブルグループが招待された。 おなじみのアニメの曲や、音楽の教科書に出てくる曲。それから、モーツァルトが作曲したアイネクライネナハトムジークは、普通なら絃楽器のみで演奏されるが、その際にはクラリネット、フルート、バイオリン、コントラバスで演奏されていた。 響留は、そのフルートの音に完全に心を奪われた。 でも、大変病弱で、しかも家庭環境に恵まれていなかった彼は、何度も死にかけていた。その時に、あの演奏を思い出して、心の支えにして、いつか絶対に自分自身がフルート奏者になることを誓い、生きていこうと思ったのだった。 それから、小学6年生でようやく身長が120㎝になって、少しずつ体力が付いた。 響留がフルートを始めたのは、中学1年の時だった。フルートのために吹奏楽に入ったのだけど、そこで、顧問の先生から男子はフルートはダメと言われた。が、方々にどうにかそこを頼み込んで、フルートを通して音楽を学ぶ道を自分で切り開いた。 ちなみに、女子がフルートを構えると、女子力が3割増しになるらしい。 なるほど、フルート奏者はプロアマ問わず圧倒的に女性が多い。 確かに、ホールに立ったときに、照明を受けてキラキラと光るフルートは宝石のようだから、それを構えている女性はいつもよりキレイにみえる。 でも、それは、女性なら。である。 そんななか、男性フルート奏者に対する女性フルート奏者の評価は、その音楽的な技術以前に、女性に対する気遣いが出来るかどうかで変化する。 モテるならモテるで、その気遣いの分配が大変だし、モテない場合には、キモいと言われないための配慮が必要だ。 ちなみに、響留の場合、そこそこモテる。飲み物の差し入れや、プレゼント等はよくもらう。 ここでは、プレゼントはもらいつつ、お返しはさりげなく必ずする。のが、トラブル回避のヒケツのようだ。そう響留が言っていた。 フツーなら、そこで複数の女性と抜き差しならない関係になりそうなものだが、響留は演奏会後の食事に誘われても、誰とも食事に行かない。 理由は、そんな時間があるのなら、もっと練習をしたいというのが響留の最もな理由だ。それがある意味幸いして、周りの女性とはそこそこの距離を保てている。 心に分厚い壁を持つ響留には、ちょうど良いと思っている。
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