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自虐的
自虐的だ。
響留は副業のお仕事が終わって、どれだけ疲れていても、基礎練習から始める音出しは、2時間は絶対に行う。
それが響留が自分に課しているノルマだ。
しかし、さすがに副業の内容がハードだと、音がめちゃくちゃな時がある。
ねえ、くるみさん、プロにもいろいろあるけれど、一人前と呼ばれるには、1万時間以上の練習が必要なんだって。
1日に4時間吹くとして、約8年。
1日に8時間なら、その半分。
学生時代からの時間で換算すれば、そんなの余裕で越えているけど、努力する人はその壁をどんどん越えて、更なる高みを目指すから、どんな時でも努力は必要だよね。
と言って、副業もそこそこハードな内容なのに、そのあとで必ず個人練習を毎日する。
酒は飲まない。
酔っている時間があれば、楽譜を見直す。
タバコも吸わない。
楽器ににおいがつくし、口のにおいも気になる。それに肺活量へのダメージもあるし、何よりもお金がかかる。
パチンコや競馬等も一切しない。
あの独特の雰囲気と、いろんな人の熱気やざわつく音が苦手なのだそうだ。
・・と、ここまで言って、もうお分かりかと思うが、こんな生活をしていれば、世間の情勢に大変疎くなる。
流行りのお店や最新ニュースなどなど、ほとんど響留には縁の遠いものだ。
響留が華やかにみえるのは、ステージ衣装を着て、ホールに立っているときくらいだ。
「自分には才能がないけど、本当に音楽が好きだから、努力するしかないよね。
それにね、
聴いてくださる人が笑顔になってくれるんだよ。
こんなに嬉しいお仕事は他にないよ。」
と、私に言うのだけど、その言葉を響留を好きになってくれた女の人に言えば、関係性はもっと長引くのに・・
と、思わざるを得ない。
こんな自虐的な音楽家は響留だけなのだろうか・・?
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