自虐的

1/1
前へ
/28ページ
次へ

自虐的

自虐的だ。 響留は副業のお仕事が終わって、どれだけ疲れていても、基礎練習から始める音出しは、2時間は絶対に行う。 それが響留が自分に課しているノルマだ。 しかし、さすがに副業の内容がハードだと、音がめちゃくちゃな時がある。 ねえ、くるみさん、プロにもいろいろあるけれど、一人前と呼ばれるには、1万時間以上の練習が必要なんだって。 1日に4時間吹くとして、約8年。 1日に8時間なら、その半分。 学生時代からの時間で換算すれば、そんなの余裕で越えているけど、努力する人はその壁をどんどん越えて、更なる高みを目指すから、どんな時でも努力は必要だよね。 と言って、副業もそこそこハードな内容なのに、そのあとで必ず個人練習を毎日する。 酒は飲まない。 酔っている時間があれば、楽譜を見直す。 タバコも吸わない。 楽器ににおいがつくし、口のにおいも気になる。それに肺活量へのダメージもあるし、何よりもお金がかかる。 パチンコや競馬等も一切しない。 あの独特の雰囲気と、いろんな人の熱気やざわつく音が苦手なのだそうだ。 ・・と、ここまで言って、もうお分かりかと思うが、こんな生活をしていれば、世間の情勢に大変疎くなる。 流行りのお店や最新ニュースなどなど、ほとんど響留には縁の遠いものだ。 響留が華やかにみえるのは、ステージ衣装を着て、ホールに立っているときくらいだ。 「自分には才能がないけど、本当に音楽が好きだから、努力するしかないよね。 それにね、 聴いてくださる人が笑顔になってくれるんだよ。 こんなに嬉しいお仕事は他にないよ。」 と、私に言うのだけど、その言葉を響留を好きになってくれた女の人に言えば、関係性はもっと長引くのに・・ と、思わざるを得ない。 こんな自虐的な音楽家は響留だけなのだろうか・・?
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加