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はじまり
小学校の帰りに突然降り始めた雨は、止むことなく夜になってもしとしとと降っていた。
平屋アパートの端で、鳴き声に気付いたのは、彼の妹だった。
そこには、段ボールに入れられた仔猫が三匹いた。いつ捨てられたのか、どうすればいいのか。わからなかった。
彼は家にその仔猫たちを連れて帰りたいと思った。
でも、そんなことをすれば、怒られて殴られるのは考えるまでもなかった。
以前、のら猫を拾って帰ったとき、彼はひどく怒られていた。彼が喘息持ちだったので、それは仕方がない部分もあった。
それに、あの家庭環境では、ひどい扱いを受けて、あっという間に捨てられる。
そんなことは、あのときの彼にもわかっていた。
だから、彼は降りしきる雨のなか、天を仰いで祈った。
どうか、この子たちを助けてください。この子たちに私の命をわけてあげてください。だから、どうか、この子たちを助けてあげてください。
雨は勢いを増し、雷鳴が轟き始めた。だから、彼は家の中に入って、仔猫の様子をそれ以上は見続けることが出来なかった。
翌朝、昨日の雨はあがり、雲の間から、陽光が差し込んでいた。
その時にはもう、仔猫の姿も、仔猫が入っていた段ボールも無くなっていた。
響留は、とてもとても自分を責めていた。仔猫を救えなかったこと、仔猫が飼えないほど自分の体調が悪かったこと。
彼は、そのときの事をずっと覚えている。
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