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ここは都内北方の住宅街の一角。
ツカオは男子高3年生だが自宅で引きこもり……もう2年になる。
今日も朝からPCゲームに夢中だった。
が、ふと手を止めた。
母のエミカが、階段を上がってくる音が聞こえたからだ。
やがて軽いノックに続いて、ドア越しに、
「ねぇ……このままずっと……そんなことばかりしているつもりなの?」
彼は、ドアに向かって、
「うん……そのつもりだけど……」
ドアが遠慮ぎみに開いて、母が顔を見せた。
ツカオは、一瞬ドキッとした。が、
「ダメかな……?」
その顔を見るのは久しぶりで、前に見た時よりも、やつれていて、白髪も増えたように思えた。
「ダメって言うか……」
眉間に苦しそうなシワを寄せた母の顔には、
〈どうしてあんたは、普通にできないの?〉
と書いてある気がした。
「僕は、幸せだよ。このままじゃダメ?」
「ツカオが幸せでもね……」
母が呑みこんだ言葉の続きは、多分……
〈私やお父さんは苦しいのよ……〉
ツカオは母を見詰めて、
「ママは、幸せじゃないの?」
母が悲しそうな顔で目を閉じ、溜め息をついたので、
彼は、あわててパソコンの画面に視線を戻した。
すると母が、その背中に向かって、
「これ、ツカオ宛の手紙、さっきポストに届いてたから……。
ここに置いとくね」
ドアの閉まる音に続いて、階段を下りていく音が消えた直後、ツカオは怪訝そうにドアの前まで行ってみた。
それは少し大きい白い封筒で、裏面は無地だったが、表面にこの家の住所とツカオの姓名が書いてあった。
「いったい何かな……?」
開封すると、一枚の便箋と、
『「本当の幸せ」への招待状』
と印刷された厚紙が入っていた。
その奇妙な匂いのする便箋には、手書きで、
『これは、本当の幸せへの招待状です。
印刷された厚紙を封筒に戻し、今夜、枕の下に敷いて寝てください。
本当の幸せになれる所に行くことが出来ます』
彼は、その招待状を見ながら、
「へー……本当の幸せ……か……」
便箋の方は、そのまま傍のゴミ箱に捨てると、書いてあった通りにすることにした。
その夜、ツカオは、奇妙な招待状の入った封筒を枕の下に敷いて寝た。
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