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私は校舎の中を歩いていた。
校長と教頭は会議があるということで、私とゆうちゃんは二人で校舎を回ることになった。
案内している間、ゆうちゃんは懐古するように校舎内を眺めていた。
パパと同い年だけど、そんな風に思えないほどゆうちゃんは若い。
年齢不詳――…
行き交う人とすれ違う度、ゆうちゃんは頭を下げる。
さっきすれ違った女子生徒たちが時間差で甲高い声を上げるのが聴こえてくる。
私にとってゆうちゃんは一言で言えば、『王子様』のような存在。
そんなゆうちゃんのことを私は小さい頃から好きだった。
スクールの上級生からも付き合って欲しいと声を掛けられたこともあった。
だけど、ゆうちゃんに比べればみんな子供。
相手にならなかった。
ゆうちゃん以上の男の人に今だかつて私は会ったことがない。
そんなゆうちゃんとずっと一緒にいられると私は信じていた。
ところが、約一年前、パパが球界からの引退を発表した。
日本へ帰国することが決まった時、私は愕然とした。
もうゆうちゃんと会えなくなると思うと辛くて、大好きだった3ポンドのステーキ肉が喉に通らないほどになってしまった。
そんな私を見かねたママがゆうちゃんを呼んでくれた。
祐『梨乃の通う高校は俺の通った母校なんだ。俺もそのうち日本に戻ることになるから……』
ゆうちゃんを育てた高校がそこにはある。
そしていずれゆうちゃんが日本へ戻ることになるのならば、先に帰ってゆうちゃんを待っていてもいいんじゃないかと私は帰国を決意した。
ところが、帰国して入学したその学校は私が想像していた学校とはかけ離れていた。
田舎のごく平凡な場所にあるその高校。
ロスという大都会のど真ん中のスクールに通っていた私にとって受け入れがたい現実。
入学してみれば、恐ろしくレベルの低い学力。
文武両道を掲げていてもそれは名ばかり。
三年間もこんなつまらない学校で過ごさなければいけないという絶望感。
アメリカ支社での活躍から考えると、ゆうちゃんが日本に帰る気配は当分なさそうだ。
ゆうちゃんはきっと私をパパやママと帰国させる為に嘘をついたのではないか。
そんな憶測までしていた矢先のこと――
ゆうちゃんのお祖父さんが亡くなった。
そして、それを機会に先月ゆうちゃんのお父さんが引退、ゆうちゃんがCEOとなった。
その本社がなんと私たちの住む隣町。
似つかわしくない場所ではあるけれど、CEOになるということはそこにゆうちゃんがずっといるということ。
アメリカでもよく足を運んでくれていたから、きっと日本に帰ってくれば以前同様また遊びに来てくれると少し期待していた。
ところが、肝心のそのゆうちゃんが私を忘れているようだ――…
思わずため息が洩れた。
その時、ゆうちゃんが言った。
祐「藤沢さん、生徒会室っでどこだったかな?」
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