ある雨の日に

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放課後、いつものように俺は部活へ向かっていた。 俺が所属するのは陸上部。 全国でも名が知られる俺たちの高校の陸上部は、毎年インターハイ出場者が出るということで県内で人気の高校だ。 そこにはこの春まで坂田先生という名顧問がいた。 俺もその坂田先生に教えてもらいたくて、昨年この高校へ陸上をしにやってきた。 坂田先生は、噂に聞いていたとおりの人だった。 先生は生徒の素質を一瞬にして見抜く。 そして、一人一人にあったメニューを考え、それを確実にこなさせる。 それだけ名の知れた名顧問の考えるメニューだからハード……と思いきや、それがそんなことはない。 生徒がこなせないような無茶なメニューは一切組むことはしない。 決められら時間内でその人がこなせるだけのメニューを与えている。 面白みがないという人もいるかもしれない。 だが、同じことを繰り返すことによって確実にそれが自分のものとなった時、信じられないほどの伸びを感じることになる。 個の実力を確実に引き出す神と言われし人。 俺は高校に入って初めて陸上を始めたが、最初にこの先生の下でやれて良かったと思っている。 そして三年間ずっと先生の下で頑張ろうと決めていた。 そんな矢先、坂田先生が勇退することを知った。 暫く俺はショックを引き摺っていた。 そんな俺の些細な心の内を先生は察していた。 離任式の日に渡してくれたバインダー。 それはこれから卒業までのメニューを考案したもの。 バインダーにぎっしりと挟み込まれたそれを胸に俺は改めて誓った。 俺はインターハイに絶対出ると。 先生の後任はこの学校の卒業生。 自分の信頼できる教え子だから安心していいとのことだった。
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