追想

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その瞬間、会場内がザワついた。 ステージへ私の知るその人が向かっていく―― あまりに騒々しいその状態に慌てた司会者がマイクをとった。 司会『お静かに願いしますっ』 そんな私たちの様子をその人は悠然たる態度で見つめている。 そして、美しい所作でもって挨拶をすると一歩前に出た。 穏やかなその表情でもって生徒を見据えると、彼は口を開いた。 祐「皆さん、こんにちは。さきほど紹介あずかりました大泉祐です。私はこちらの学校へ在籍し……」 誰をも魅了するその姿。 それは間違いなく『ゆうちゃん』だ。 ゆうちゃんはアメリカにいる時、家族でお世話になっていた人。 大泉グループという世界を股にかける会社の御曹司。 そして先月、ゆうちゃんは大泉グループの最高経営責任者になったばかりだ。 もちろんこの大きなニュースは全世界へとネットなども通して伝えられた。 だから知らない人などいない。 そんなゆうちゃんがこんな田舎の学校に来るなんて――… ゆうちゃんの挨拶が終わると司会者が驚きの事実を発表した。 司会『大泉様からは寄付金一億円をいただいております。この寄付金は学校の為に使っていただきたいとのことで……』 興奮気味の司会者を後目にゆうちゃんは一度、頭を下げてから腰かけた。 ステージは前だというのにアリーナの生徒も保護者も皆来賓席のゆうちゃんに釘付け。 そして私もまた唖然としていた。 (……ゆうちゃん………) 成瀬「おい、藤沢……次、おまえの番だぞ?」 成瀬が肘で私を突いたことで私は我に返った。 (…ぁ…いけない……そうだった。この後、私、挨拶するんだった……) ゆうちゃんの前で……格好悪い姿なんて見せられない。 (ゆうちゃん……梨乃のこと、見てて…?) 私は背筋を伸ばし、その瞬間を待った。 司会『それでは在校生による歓迎の辞に移ります。在校生総代 藤沢梨乃。』 梨乃「はいっ」 私はそのステージへと向かった。
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