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入学式での役目を終えた私は、成瀬と体育館を後にした。
成瀬「やっぱ藤沢は威厳あるなぁ…」
何回目だろう。
式が終わってからずっと成瀬は感心している。
生徒代表挨拶―――
私はこれまで緊張などしたことがない。
その私が今日の挨拶で、生まれて初めて緊張というものを感じた。
だけど、その緊張は誰にも気づかれていない。
ほどよい緊張感も悪くない。
それは逆に式を引き締めることになったから。
成瀬「藤沢、この後どうすんの?」
私はバスケ部に所属している。
もちろんこの後、部活に行く予定はしている。
だけど、まだ体育館は式の片づけをしている最中。
暫くは使えそうもない。
梨乃「勉強でもしようかな…」
私の夢は弁護士。
ゆうちゃんの会社でいずれ顧問弁護士として働きたいと思っている。
成瀬「相変わらず真面目だな。あぁ…そういえば俺も英語の宿題やってないな。なぁ…藤沢、教えてくんない?」
梨乃「ごめん。今日はひとりで勉強したいんだ。また今度でいい?」
成瀬「そっか。ん、分かったよ。じゃぁ今度絶対教えろよな?」
成瀬はこの学校の生徒にしては優秀だ。
だけど、唯一英語は苦手らしい。
私はアメリカで育ったから英語は母国語みたいなもの。
日本での英語の授業なんて余裕だ……と思っていた。
ところが、帰国後、日本の英語教育のお粗末さに愕然とした。
一体どういうつもりでこんな勉強をしているのだろうか。
意味のない日本の英語教育に私は戸惑った。
それでも私は帰国子女。
英語のテストはいつも満点。
模範解答と違うことを書いていてもだ。
英語のテストの時間はとにかく時間が余る。
仕方がないから、答案用紙の裏にギッシリと先生へ英語でメッセージを書く。
すると後日、返却されたその用紙にはその返事が書かれてある。
語法ミス連発の拙い文章で――
そんなレベルの教師が教えているのだから日本の英語教育はいつまでたっても進まないと言われても仕方がないのかもしれない。
そういう意味では私は父と母に感謝している。
第一言語と言われる英語圏で育ててくれたことを。
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