Hの惨劇

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 浜辺で野晒しにされていた小瓶には、奇妙な文章が書かれた手紙が封入されていた。 記録者は、小瓶がかれの手に渡るはるか以前にこの島で息絶えてしまったらしく、自分に替わって、島で起きた猟奇的な殺人事件を世間に知らせて欲しいと読み手に依頼しているようだ。 記録者の遺体は、この島のどこかで野晒しにされているには違いないだろうが、手紙を記載したのが、何年前のことなのか、はっきりとしない。 今頃、白骨死体になっていても不思議ではないが、それでも自分を見付け出して欲しいと言ってるようだ。 酷く欠落したかれの記憶を埋めたのは、そんな複雑な心情だった。この島の浜辺で目が覚めて、酷い悪夢に魘されていたことだけは覚えているが、この島に来る前に『自分が何者で何をしていたのか』何一つ思い出せないというのに、故人が個人的な理由で厭な仕事を押し付けてくる。  「お~いっ! 誰か生存者はいないか?」  かれは、声を張り上げて、この島に生存者がいるか確かめるが、かれの声が虚しく響き渡るだけだった。かれを除いて生存者はいないようだ。  「一体、何がどうなっているんだよ?」  ここにいてはチリチリと焼けるような肌の焼けるような感覚と、腐ったものが放つ異様な臭いと、海の向こうにまで広がる不気味な霧に感覚がおかしくなりそうなのか既におかしくなっているのかもわかないまま死んでしまいそうになると、浜辺を離れ、ある建物を目指した。
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