for o'clock -黄昏-

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 いつの頃からか、私は所謂青姦というものに固執するようになった。誰かに見られるかもしれない緊迫感がいいとか自然と一体になった感じがいいとかよく聞くけど、私の場合理由はよく分からなかった。ただ何となくホテルとかで普通にやるより満たされる様な気がして心地よい。それだけだった。  性に目覚めてから今日に至るまで何十人という男を誘惑し、交わってきた。これでも最初は誰の目にも付かない自宅でやることが多かった。私の両親は仕事が忙しく、二人とも不在が多いため男を連れ込み放題だった。いつになっても家に誰もいない寂しさに耐えられなかったのか、それとも性の衝動が抑えられず却って好都合だと考えていたのか、今となってはもう思い出せない。  とある夏の夕暮れ時。待ち合わせ場所から自宅に連れ込む途中にある公園で、ふと心地よい香りを感じた。匂いを頼りに辿ると、人目に付かない花壇の隅に1メートル近くある草丈がある黄、白、ピンクと色とりどりの花が咲き乱れる植物があった。目の前には『オシロイバナ』と書かれたネームプレートが地面に刺さっており、どういう訳かその花達に囲まれる様に真ん中だけポッカリとスペースが空いていた。  この花に出逢ってから、私はこの場所で事を致す様になった。花に魅了され、ここでしたいという欲求が生じたというのもあるけど、外から姿が見えない程鬱蒼としている上に人が寄りにくい隅にあることも相まって、青姦をするには悪くない場所だった。どうも夕暮れから夜にかけて咲く花らしく、昼に行ってもただの緑の塊がそこにあるだけだった。その点もまるで私みたいで好感が持てた。  ここですると、何故か男は今日みたいに乱暴に私を扱う。一応公然猥褻罪にあたる行為だし、同意はする癖に人に見られたくないという思いが皆強いためか、さっさと済ませたいのだろう。あんまりにも激しく動くから、二人分の熱が草いきれみたいになって、花の香りと混ざってロウリュウサウナみたいな空間が出来上がる。セックス自体は気持ちいいと思ったことは無いけど、香りが一層強まるこの時が、私は何より心地よくて好きだった。  痛みが大分引いてきて、もう起き上がれそうだ。夜の帳が下り、秋とはいえど流石に肌寒くなってくる時期になってきた。この寒さではこの行為に及ぶのももう限界だろうなと思った。冬になると寒いからと言って服を脱ぎたがらないので、プレイに応じてくれなくなるとネットに書いてあった。可憐な花を咲かせるこのオシロイバナとやらも、流石に冬には枯れてしまうだろう。私から漏れだす愛液が栄養になっているのか、まだ生き生きとしているけど、この花が無いのであればここでする理由はない。 「寂しいけれど、しばらくお別れだね。今までありがとう。また来年会おうね。」  次に会えるのは早くて夏かなぁ。でも暑いからやっぱり秋がいいな。等と考えながら私は別れを惜しみつつその場を去ろうとした。
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