秋のクレマチス

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もう、大丈夫だとあの子は笑った。夏が過ぎ、秋の色に染った世界の中、あの子がいなくなった。 いつも一緒だった。私達は本当の家族のように仲が良かった。あの子が悲しいと私も悲しく、あの子が嬉しいと私も嬉しかった。 よく、泣いている事の多かったあの子は、私が居ないとすぐ消えてしまいそうだった。だから、いつも守ってあげようと、あの子の味方に私だけはなってあげようと、ずっとそうやって二人で生きてきた。 あの子の親は本当に酷い人達で、あの子に酷いことばかりした。私はあの子を守りながらあの子の親に詰め寄った。なんであの子に酷い事をするのかと。 その度あの子の親はとても気持ち悪いモノを見るように私を見た。私にも手を上げてきたけど、私はやられっぱなしではない。もちろんやり返してやった。私はあの子を守ったことも、自分が痛い思いをしたのも後悔なんてしていない。でも、あの子はとても悲しそうな顔をして、泣きながら何度も私に謝った。あの子が泣き止んで眠るまで私はあの子の背を撫でた。しゃくりあげる声が小さくなり、やがて寝息に変わるまでずっと。あの子が貰えなかった愛情を私が代わりにあげようと、そう、決めていたから。 やがて、あの子が中学生になる少し前頃に、スーツを着込んだ大人が、あの子を連れて行った。これであの子はもう、あの親に酷いことをされたりしない。私は安心した。 でも、あの子は新しい場所に慣れずいつも怯えて過ごしていた。私が居ないと不安なのだと、泣きながら懇願した。だから私はそれからも、ずっとあの子の側に居た。 あの子が高校生になり、大学生になり、社会人になり・・・幾重もの時が流れた。そのどの時間の中にも私はずっとあの子の側に居た。 ある時、夏が過ぎ、秋の色が世界を包んだ頃、あの子は泣き笑いの顔で、ずっと守ってくれてありがとうと、何度も繰り返し言った。泣くあの子の背を撫でるのはいつも私の役目だった。私がいつも、あの背を撫でた。 でも、もういいのだ。あの子には、私の代わりにそれをしてくれる優しい手がある。今の季節に似合った名前を持った朗らかな笑みを浮かべるとても優しい人が。 今日、あの子は純白の衣を纏って沢山の人に祝福された。幸せに包まれたあの子の姿を最期に、私の意識は暗く沈んでいった。あの子が泣いている気がしたけど、もう大丈夫だろう。私はとても、穏やかな気持ちだった。 いなくなったあの子はとても優しい子だった。私が辛い時側に来てくれて、いつも私を守ってくれてた。あの子は私の母の様な子だった。優しさも、愛情も、あの子からいつも貰っていた。私はあの子と二人の世界で生きてきた。でも、あの子は今日、いなくなってしまった。私に「もう大丈夫だ」と笑っていってしまった。泣きながらありがとうと繰り返す私の背を撫でてくれたのは少し角張った、でもとても優しい手だった。 本当にありがとう。いつも守ってくれてありがとう。 私の声に返事は無かった。あの子はもうかえったのだ。だって、あの子はもう一人の私だったのだから・・・。
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