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「所長」
不意に呼ばれる。
「はひ?」
返事を噛んだ。
「そのお茶、マズいですよ」
首筋はひんやりしない。マズいというのは本当らしい。
ずずず。とお茶を一口。体の芯から冷えそうなほど冷たい。しかも本当に、マズい。
「……ねえ樹原くん、なんなのこのお茶?」
「賞味期限が切れてました。備品を無駄にしてはいけないかと」
確かにそうだけど。せめて温かいのがよかったなあ。
遠慮がちにお願いしてみよう。
「樹原くぅん。そのぉ、ぼく、あったかいものが欲しいなあ」
「私の心でよければ」
顔こそ笑顔だけど、絶対怒ってる。
賞味期限ならぬ、秘書不機嫌……ああ、そんな、くだらないことしか浮かばない。怒ってる。髪に気づかなかったから?
"マズかった"のは、僕の対応とお茶だったようで。
16:00の就業時間を終えて(今日も客が来なかった)探偵事務所を閉める。愛理くんの自宅は徒歩5分らしく、やや不機嫌なまま帰宅していった。
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