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なんだろっかー④
「なんだ、四丁目の駐車場にあるんだ」
「いいから黙ってついてこいって。他の友達には言ってないだろうな?」
「うん!約束したもんね!」
上機嫌な妹を連れ、僕らは「なんだろっかー」の前に立っていた。
「へえぇ、このロッカー全部そうなの?すごーい!」
「違うよ、この隅っこのぼろいのだけだって」
「そうなんだ。まあいっぱいあっても意味ないか。で、どうやって使うの?」
「……別に、特別なことはないよ」
僕は昨日のようにリュックサックから使わなくなった色鉛筆を取り出し、ロッカーに放り込む。
「扉を閉めると鍵がかかるから気を付けろよ。大事なものとか入れて出せなくなっても知らないからな」
「そんなことしないし!ね、早く開けてみてよ!」
僕は財布を開いて舌打ちする。そうだ、昨日で百円玉は使い切ってしまったんだ。しかし、この場で妹に金を借りるのも格好がつかない気がする。
そういえば、最初に男の革靴を蝉に変えた時は、良く分からない外国のお金を使ったっけ。もしかして百円玉じゃなくてもいいのかもしれない。
小銭入れから十円玉を取り出し、投入口に入れてみる。壊れたとしても構わなかった。開かなければ妹も諦めるだろうし、僕が失うのはちびた色鉛筆だけだ。
かちゃり。意外にも、鍵は何の抵抗もなく回った。
「……ほら、開けるぞ」
中にあったのは、季節外れの花をつけた桜の枝だ。
「うわー!本当だ!本当に変わっちゃった!」
妹は無邪気に歓声を上げる。
「……なんだ。百円じゃなくても良かったならもっと安く済んだのにな」
「どうかしたの?」
「いや、なんでも。な、本当だったろ?」
「うん!あたしもやるやる!」
妹はロッカーの前に座り込むと、さっそく鞄からごちゃごちゃとしたおもちゃを出し始めた。
「ねえお兄ちゃん、ここにお金入れたらいいの?」
「そうだよ」
「ふふ、何が出るかなーっと」
妹は小さな手で鍵を回し、勢いよく扉を開く。
「うわーっ!ゾンビだー!」
「なんだって?」
視線を向けると、パーティ―グッズのような安っぽいゾンビのマスクをかぶった妹が、ふざけて両手を振り上げている。
「これは『おっかねー』ってことなのか……?」
「あはははは!ゾンビ出た!」
マスクを被ったまま、妹は次のおもちゃをロッカーに入れた。
「ちょっと待てよ、次は金だしてやるから」
「え、いいのー?」
僕は妹を押しのけ、投入口に十円玉を二枚入れる。いくらでもいいなら、これでも変化は成立するはずだけど。
扉を開けると、そこには美しい羽根を持った蝶がとまって羽を開いていた。
二匹並んだそれは、まるで美しいアクセサリーの様だった。
「うわー、二匹もいる!なんでなんで?」
「……金、二枚入れたから、かな」
「うけるし!二倍だ!」
甲高い声で笑い、妹は飛び出した蝶を捕まえようと飛び跳ねる。
しかし、僕はそこまで愉快な気分にはなれなかった。法則がつかめたのは良いとしても、結局出てくるのは虫か植物か靴かおもちゃだ。
それが二つ出てきても三つ出てきても、たいした変わりはない。
残念だが、ドラえもんのお取り寄せバッグのような使い方はできそうにない、ということがはっきりわかってしまった。
「僕はもうこれっきりにするから、お前もほどほどにしとけよ」
そう告げて振り向くと、ちょうど腕が開きっぱなしのロッカーに当たり、扉が閉まる。
ばたん。
「あれ?お兄ちゃん、閉めちゃったの?」
「……え?」
妹の声は、その中から聞こえた。
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