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「先輩、どこ行きますか?」 ビーはエーに訊ねた。 真っ暗な夜空には上弦の月が浮かんでいた。残念ながら星は街の明かりでほとんど見えなかった。 「そうだな。この辺のバーガーショップでいいんだろう?」 エー先輩はとりあえず街の明かりの賑やかな方へ歩き出した。 「はあ、まあ」 「なんだ、その気のない返事は」 エーは呆れた。 「だって先輩、食べ物に執着なさすぎですよ」 「いや、俺だってこだわりはある。ただ勤務中は俺だっていくらかは良心があるんだよ」 そういってエー先輩はうんと少しだと言わんばかりに手で空中をつまんで見せた。 「先輩だってハンバーガー食べたくなったんでしょ」 「まあな。でもそれだけじゃない」 エーはにやりと口角を上げた。 「事件の匂いがするんだ」 「マジですか?肉の匂いとともに?」 「そう、肉の匂いとともに!」 エーは続けた。 「こんないい月がでているときは、悪い奴らも腹がすくってもんだ」 「たしかにそうっすね」とビーはうなずいた。 「じゃ、ビー、おまえが肉体労働な」 エーが高らかに笑う。 「はいはい。わかりました。じゃ支払いは先輩っすよね」 「あんまり高いのはなあ……」 エーが渋っていると「先輩、けちっすよ」 ビーがぼそっとつぶやく。 「じゃ、なるべく安いのな」 「オーケーです。新人のもあるんで、よろしくお願いします」 ビーは機嫌よく鼻歌を歌いだした。 夜の街を異質な二人が歩いていく。 エーは柔和でソフトだが頭が切れるイケメンだ。一方、ビーは浅黒い肌に筋肉質の身体から完全肉体派と思われがちだが意外にたまに細やかな神経を発揮するイケメンだ。 ふたりともルックスは正反対だが、両方ともいろんな意味で無敵だ。 繁華街についたのが午後10時も少しまわっていたため、ハンバーガー屋も閉まっているところが多かった。 二人がしばらく街を練り歩いていると、ようやく開いているハンバーガー屋を見つけた。
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