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あの人がいなくなったのは、一面が銀世界に染まったある冬の日でした。
貴方に私は尋ねました。
「あの人は何処に向かったのでしょうか」
貴方は答えました。
「南に向かったのかもしれない、此処は酷く寒いから。」
私は南に向かいました。
一面に広がる無限の海の中から私はあの人を500年かけて探しましたが、あの人はそこにはいませんでした。
貴方に私は再び尋ねました。
「あの人は何処に向かったのでしょうか」
貴方は答えました。
「東かもしれない、あそこは多くの街が栄えている。」
私は東に向かいました。
数多の人々の笑顔の中から私はあの人を500年かけて探しましたが、あの人はそこにはいませんでした。
貴方に私は再び尋ねました。
「あの人は何処に向かったのでしょうか」
貴方は答えました。
「西かもしれない、あそこは綺麗な夕陽が見れる。」
私は西に向かいました。
繰り返す大きな日暮れの中から私はあの人を500年かけて探しましたが、あの人はそこにはいませんでした。
貴方は見兼ねて言いました。
「北に戻ったのかもしれない、あなたが恋しくなったに違いない。」
私は故郷に帰りました。
忘れられない思い出の場所を500年かけて何度も巡りましたが、あの人は此処にもいませんでした。
2000年目の冬が終わる日、私はあの人がもう何処にもいないことを知りました。
鈍い春の息吹が、私の旅路の終わりを告げました。
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