恋愛RPG

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その日、いつもはムードメーカーとして部屋中を明るく楽しくしてくれるはずの緑川が、めずらしく真剣な表情でデスクに向かっていた。 「緑川くん、取引先に渡す書類でミスって、かなり先方怒らせちゃったらしいよ」 噂好きのお姉さま社員が、ひそひそと私に耳打ちする。いつもこういう空気の時、率先して場を和ませてくれるのが緑川なんだけど、今回はその緑川が落ち込んでいるので、場を明るくできる人がいない。みんな腫れ物をさけるかのように静かに時をやり過ごし、1日が終わった。 私は、ただ。 緑川にまた、元気になってほしくて。 また、いつもの笑顔を見せてほしくて。 退社前、緑川が部長と何やら神妙な顔つきをして話し込んでいる隙を見計らい、机の上にこっそりコーヒーとメモを置いて、気づかれる前にその場を後にしたのだった。
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