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変化するもの、変わらないもの
俺はコンビニであいつの好きそうなものをいくつか見繕った。袋をカシャカシャと言わせながら、町の中にある社に向かう。
「先輩、遅いですよ」
クロは尻尾を振りながら俺の足に擦り寄ってきた。辺りはすっかり暗くなっていた。
「ほれ、ご褒美だ。…あ、これは俺のな」
袋の中から、コンビニで買ったチキンを取り出すと、俺はそれに齧り付いた。クロのやつは袋に頭を突っ込み、中からモノを引っ張り出す。その光景を見ていた俺とクロの目が合った。俺が結果を催促していることが伝わったらしい。
「大丈夫ですよ。無事、神隠しの原因は回収しました。女の子でしたよ。ずっと1人で寂しかったんでしょうね」
クロは器用に袋を開けると、その小さな頬袋をパンパンにした。満足そうな顔でモグモグと食っている様は、ただの猫にしか見えない。
「…で、先輩の方は?」
俺は最後の一口を飲み込むと、返事の代わりに一つゲップをした。
「こっちも問題なしだ。跡が残ってて助かったぜ。だいぶ、生者としての存在感が消されてたけどな…行方不明者、全員無事だ」
「それにしても」とクロが口を開いた。
「ボクの鼻もですけど…先輩、随分と力が弱まってるじゃないですか。このまま消えちゃうんじゃないですか?」
少しバカにしたように尻尾を揺らす。それを掴み、俺は社の方へと投げ飛ばした。
「人間が信仰しねぇんだから仕方ねーだろ! いくら氏神つってもな、こんだけ町の中じゃあ信仰もクソもないわけ! なのに神隠しだの言いやがって…つーか、俺が消えたら遣いのお前も消えるんだぞ、バーカ!!」
投げ飛ばされたクロは華麗に着地を決め、ため息をついた。
「先輩、仮にも神様なんですから…クソとかバーカとか、子供みたいなこと言わないでください、恥ずかしい…」
クロはゆっくりと上を見上げた。俺も静かに上を見る。そこには、昔と変わらない美しさで輝く月が浮かんでいた。
「月が、綺麗ですね」
クロは慌てて、夏目漱石じゃありませんよ。と付け加えた。
「…星は殆ど見えなくなっちまったけどな」
「そう、ですね…」とクロは寂しく呟いた。
それは人間の信仰心のように、一つ一つと空から消える。
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