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誰そ彼時
空が赤く染まる頃、なんとも言えない空気が道路を這い回る。
そんな中、1人の女の子は深呼吸をした。満ち足りた表情でトテトテと歩き出す。家に帰る…と言う感じではなさそうだった。
「なぁ、君。こんな所で何をしているんだい?」
女の子は辺りを見渡した。近くに人影はなく、赤い夕日を背にした黒猫だけだった。女の子は首を傾げた。それを真似するように黒猫も首を傾げた。
「ボクと、遊ばない?」
猫が喋っていることに対してか、遊ぼうと言われたことに対してか、女の子は顔をキラキラと輝かせた。
「こっちだよ」
黒猫は尻尾を振りながら歩き出した。女の子はその後を追った。
少し歩くと、家と家の間に小さな社が見えてきた。黒猫は鳥居をくぐり、振り向いた。
「こっちにおいで」
女の子は何かを察したのか、ゴクリと唾を飲んだ。瞳が揺れるその表情からは動揺が見て取れる。
女の子は一歩、また一歩と鳥居へ近づいた。あと一歩の所で足を止める。
「どうしたの?」
黒猫は座って尻尾を振っていた。女の子は恐る恐る手を伸ばした。
バチッ
大きな音と共に光がチラつく。結界に弾かれたのだ。女の子は下唇を噛んでいた。それを見た黒猫は目を細める。
「やっと見つけた」
それを合図に黒猫の影が長く伸びた。そのまま女の子を包み込む。……そして、女の子は姿を消した。
空は紺瑠璃色へと染まりかけていた。
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