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研究センターは広い敷地がいるために、街からは離れた場所に建っている。
たいていの独身者は寮に入ることが多いが、イーサンはそこから車で1時間ほどの山奥に入ったところに、ぽつんと建っているかつて一族が住んでいた空き家を譲り受けて住んでいた。
センターから距離があるため、もうそろそろ出かけなければ遅刻してしまうと、イーサンは急いで玄関を出た。
「目につく一番大きな木に自己紹介をしろと言われたけど、森の中だから、みんな大きいんだよな」
家の周囲の木を見まわして独り呟いたイーサンは、庭から出たところにある大木を掌で撫でた。手に脈々と樹液の流れが伝わり、こちらにまで元気が伝わってくるようだ。
「よし、お前に決めた。そうだ、名前じゃなくて俗称は……。う~~ん。まっ、適当でいいか」
イーサンは右手の掌を自分に向け、甲をそっと木の幹に押し付けた。
瞬間、ヴォンと見えない気の流れが足元から沸き起こり全身を包む。手の甲が磁石のように木に吸い寄せられ、イーサンを覆った気流が渦巻くように木へと流れていくのを感じた。
動かないはずの木の皮の表面が、ぶれて見えるほどに細かく振動しだし、うねるように上へ上へと昇っていく。大きな枝が、意思があるようにバッサバッサと揺れ動き、祝福の紙吹雪のように、イーサンの周りに木の葉を降らせた。
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