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Side:Tsugumi***
「ねえ、なんか、つぐみのこと探してる人がいるんだけど」
昨日のこともありほとんど眠れず、脳がまだ覚醒していない一講目。教室に入って席に着くなり、友達からそんなことを言われた。
「え?」
「うちの大学の人じゃないみたい。つぐみの知り合い?男みたいだけど」
心当たりがない、わけではない。あいつの通っている大学は割と近いし、有り得ない話でもない。でも、まさか。
「あれ、あの人じゃないかな」
友達が教室の入口を指さして言ったので、バッと顔を上げる。──ああ、嫌な予感が的中してしまった。
「ごめん、代返お願い」
事が大きくなる前に──というか、佳祐に知られる前に──早く追い払わないと。わたしはカバンを掴んで、小走りで入口に向かった。
「あ、つぐみ」
「いったいなんなの?……ちょっと、こっち来て」
なぜか笑顔の慎二の腕を乱暴に掴んで、教室から引きずり出す。もうすぐ授業が始まるので、廊下の人気はまばらだ。わたしは少し歩いたところで立ち止まり、勢いよく振り返った。
もう二度と見ることはないだろうと思っていた顔が、そこにある。それなりに長く付き合っていたのが信じられないほど、嫌悪感が込み上げてきた。
「ねえ、なんのつもり?さすがに気持ち悪いんだけど」
「つぐみがメッセージも電話もブロックしたから。しかも、彼氏できたとか言うから、気になって」
慎二は少ししゅんとしながら、そんなことを言ってのけた。
「もういいでしょ、別れたんだし」
「この大学のやつ?」
「関係ないでしょ。いいからさっさと帰って」
「ちゃんと答えろよ」
「答える義務ないんだけど」
付き合っているときにこんな口の利き方をしたことはなかった。慎二はさすがに驚いたようで、苛ついたように目を細めた。
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